左右田誕生日だけど通常運転の狛苗SS
「左右田クン・・・・・・ソニアさんにふられたからって、そんなへこまないでよ」
「おい、やめろ。なんでお前はそんなにまっすぐに人の急所をつくんだ。いよいよ、左右田が絶望するだろーが」
砂浜に両手をつき、ため息をついている左右田を日向は心配する。
これは純粋に友情からくる心配である。
左右田が絶望する→仲間からまた絶望が出る→未来機関に疑われる→死亡フラグ。
という心配もある。
実は日向以外の全ての人々は、その心配の方が強い。
「ボクは立ち直らせるためにカツを入れてるんだよ。日向クン、君、分かってる? ここで左右田クンが絶望して死んだら、ボクらもひどいめにあうんだよ?」
言葉を少しも飾らない狛枝。
語っているうちに白熱したらしく、手がいい具合に振られている。
「いや、それ以上に恐ろしい事があるのを分かってる? つまり苗木クンまで、ひどいめにあうんだよ?!」
「・・・・・・おい、やめろ狛枝、引くから。かなり、どん引きだから」
「分かってない分かってないよ。苗木クンは希望の塊みたいなもんなんだよ? その苗木クンが未来機関のお偉いさんから怒られちゃうんだよ? つまり、君のせいで苗木クンが・・・・・・分かった。皆で、左右田クンがソニアさんにふられた絶望で死んだりしないようにどこかに幽閉しよう」
「狛枝!」
もうめちゃくちゃである。
おかげで日向の眉はつりあがり、左右田はどんどん表情が暗くなっている。
「苗木さんを呼んできましたぁ!」
「よし、よくやった罪木!」
罪木はほめられてほわあ、と幸せそのものの顔になる。
その罪木に手首を握られ引っ張られてきた苗木は、左右田の表情をうかがった。
「あの・・・・・・大丈夫? 左右田クン」
「ああ・・・・・・まあな。ほっといてくれよ・・・・・・」
「うん、でもほっとける顔色じゃないし・・・・・・」
「どうせ、お前も俺が絶望したら、未来機関に怒られるとかなんだろ!?」
「それだけじゃないよ。もう誰にも絶望してほしくないんだよ」
苗木は表情をきりっとさせる。
その背後で狛枝がほわあ、と罪木がさっきしたような表情をしている。
「もう誰にもか・・・・・・けど俺・・・・・・ソニアさんからパンツを貰えなかったんだ」
「・・・・・・はい?」
何か聞き違えたかという顔になっている苗木。
その苗木の肩に馴れ馴れしく手を置いているのが狛枝その人である。
「ほら、モノミ先生のアイランドモード? お互い仲良くなって、希望のかけらを集めて、それでパンツが貰えるっていう。あれは実に画期的なシステムだったよね。今、現実に戻ってもそれを引き継いでるんだよ」
説明に苗木は「うえっ」と軽く悲鳴をあげる。
「ひっ、引き継がなくていいよ! あのシステムは、ボクが考えたんじゃないからね? 葉隠クンとジェノサイダーがアルターエゴに変な入れ知恵をして、あんな感じになっちゃっただけなんだよ!」
「いいよ苗木クン。もう何も言わなくていいんだ。だから、ボクにパン」
言葉を続けないうちに、日向の鉄槌が、狛枝を吹っ飛ばした。
「すごいね、日向クン・・・・・・」
ふっとんで横たわる狛枝を見ながら、確かに日向は予備学科で特徴こそないものの、機転もきくし、喧嘩も強いし、ある程度、何でもできるのではないかと苗木は思う。その方がオールマイティですごいような気もする。
「悪かったな、苗木。だが、狛枝が言うようにここではその、あのシステムがまかり通っているんだ」
「じゃあ、狛枝クンが前に紙袋に入れたパンツを渡してきたのは錯乱してるわけじゃないんだね? よかった・・・・・・」
「いいのか? ・・・・・・まあ、苗木がいいならいいが・・・・・・とにかく、それで、ソニアと仲良くなったのにパンツがよこされないのが、ショックというのは、左右田が変態だからってわけじゃないんだ」
「あ、そうなんだ・・・・・・じゃあ、ソニアさんに頼んでみようか?」
「ちげーよ!!」
とここで左右田が叫んだ。
「そんな、頼んで貰ったって嬉しいわけねーんだよ! 俺はソニアさんから絆の証としてパンツが欲しかったんだ!」
何がどうしても、パンツが欲しかった、の下りで、強力に苗木の感情移入が妨げられる。
「そ、そう。でもそれはソニアさんが君に対して距離を感じてるってわけじゃなくて、ほら、そのパンツシステムに距離を感じてるんじゃない?」
「えー、でも私、パンツ貰ったけどぉ? こいつが単に嫌われ者なんじゃないのぉ?」
西園寺がくくく、と意地悪そうに笑って、さらに左右田が落ち込む。
「こら、そういう事言っちゃだめ! 皆一蓮托生なんだしさ!」
小泉の注意は少しばかり遅かった。
「なっ、西園寺まで? おい、日向、お前もパンツ貰ったのか?」
「いや・・・・・・それは・・・・・・」
血走った左右田の視線に耐えられず、日向はそっぽを向く。
「貰ったんだな?! うわああん、ソニアさーん!」
また左右田は砂浜に突っ伏して泣き出した。
「いや・・・・・・そもそも、そのシステムがおかしいんだよ、絶対おかしいんだよ。ほら、普通、女子に渡すのはあれでも、男子には・・・・・・」
「だったら日向は何なんだよ! 田中だってソニアさんからパンツ貰ってるって聞いたんだぞ!」
「ほ、ほら意識してる相手には渡せない、とかそういう奴じゃない?!」
どこまでも希望的で前向きな苗木の意見に、左右田はぱあっと顔を輝かせた。
「お前、いい事言うなあ! そうか、そうだよなあ! 意識してる相手にパンツなんて渡せないってあるよな、普通だよな! そうか、だとするとソニアさんは俺の事を・・・・・・そうかあ・・・・・・」
(絶対違う)と日向は思ったが、さりとて口にもできない。
苗木が与えた希望が、左右田の心臓をばっちりとらえているようなので、このままにしておくべきかもしれないと迷う。
何より今日は彼の誕生日である。少しばかりいい目を見たっていいのではないか。
「そうか! 苗木クン、そうだったのか! だから、意識しているボクにパンツを与えるのを拒んでいたんだね?! ごめんね、苗木クン、次は実力行使でパンツを貰おうなんて思ってたけど、それならやめるよ!」
「ギャー!!! 日向クーーン!!」
ゾンビのように復活した狛枝が苗木のジャージの下にすがって、脱がそうとしている。
無言で日向の拳が、もう一度狛枝を殴打した。
「う、うう、ありがとう、日向クン・・・・・・」
「いや、こっちこそ、ありがとうな・・・・・・おかげで左右田が立ち直ったみたいだしな」
「うん、そうだね・・・・・・」
幸せそうな左右田を見ながら、苗木は小さな声で「でも何でソニアさんは左右田クンにだけパンツ渡さないんだろう」と呟く。
皆の様子を見に来るうちに仲良くなってしまい、苗木ですらソニアからパンツを貰ったというのに。
「聞いたんだが、ソニアは、左右田さんは国民のみなさんと同じようなタイプだからですって言ってたな。自分を崇めてくれるところが、距離を置いて接しなければって義務感にかられるんだと・・・・・・」
「ソニアさんもソニアさんで色々、あるんだろうなあ・・・・・・」
きっと、それこそ絶望に飲み込まれるような隙が過去にあるのだろう。
でなければ、自分を崇拝してくれる左右田をここまで拒否するはずもない。
苗木は目を遠くしたが、実は人の心配をしている場合でもなかった。
「そうか! そうだったんだね苗木クン! ボクが君を崇めているから、君はボクと距離を置くべきかもしれないなんて気持ちになっちゃって、それでパンツをくれないんだねえ?」
「うわあああああ!!」
またも足に両手でとりすがられ、苗木は悲鳴をあげる。
日向は、拳を固めた。
【完】
「左右田クン・・・・・・ソニアさんにふられたからって、そんなへこまないでよ」
「おい、やめろ。なんでお前はそんなにまっすぐに人の急所をつくんだ。いよいよ、左右田が絶望するだろーが」
砂浜に両手をつき、ため息をついている左右田を日向は心配する。
これは純粋に友情からくる心配である。
左右田が絶望する→仲間からまた絶望が出る→未来機関に疑われる→死亡フラグ。
という心配もある。
実は日向以外の全ての人々は、その心配の方が強い。
「ボクは立ち直らせるためにカツを入れてるんだよ。日向クン、君、分かってる? ここで左右田クンが絶望して死んだら、ボクらもひどいめにあうんだよ?」
言葉を少しも飾らない狛枝。
語っているうちに白熱したらしく、手がいい具合に振られている。
「いや、それ以上に恐ろしい事があるのを分かってる? つまり苗木クンまで、ひどいめにあうんだよ?!」
「・・・・・・おい、やめろ狛枝、引くから。かなり、どん引きだから」
「分かってない分かってないよ。苗木クンは希望の塊みたいなもんなんだよ? その苗木クンが未来機関のお偉いさんから怒られちゃうんだよ? つまり、君のせいで苗木クンが・・・・・・分かった。皆で、左右田クンがソニアさんにふられた絶望で死んだりしないようにどこかに幽閉しよう」
「狛枝!」
もうめちゃくちゃである。
おかげで日向の眉はつりあがり、左右田はどんどん表情が暗くなっている。
「苗木さんを呼んできましたぁ!」
「よし、よくやった罪木!」
罪木はほめられてほわあ、と幸せそのものの顔になる。
その罪木に手首を握られ引っ張られてきた苗木は、左右田の表情をうかがった。
「あの・・・・・・大丈夫? 左右田クン」
「ああ・・・・・・まあな。ほっといてくれよ・・・・・・」
「うん、でもほっとける顔色じゃないし・・・・・・」
「どうせ、お前も俺が絶望したら、未来機関に怒られるとかなんだろ!?」
「それだけじゃないよ。もう誰にも絶望してほしくないんだよ」
苗木は表情をきりっとさせる。
その背後で狛枝がほわあ、と罪木がさっきしたような表情をしている。
「もう誰にもか・・・・・・けど俺・・・・・・ソニアさんからパンツを貰えなかったんだ」
「・・・・・・はい?」
何か聞き違えたかという顔になっている苗木。
その苗木の肩に馴れ馴れしく手を置いているのが狛枝その人である。
「ほら、モノミ先生のアイランドモード? お互い仲良くなって、希望のかけらを集めて、それでパンツが貰えるっていう。あれは実に画期的なシステムだったよね。今、現実に戻ってもそれを引き継いでるんだよ」
説明に苗木は「うえっ」と軽く悲鳴をあげる。
「ひっ、引き継がなくていいよ! あのシステムは、ボクが考えたんじゃないからね? 葉隠クンとジェノサイダーがアルターエゴに変な入れ知恵をして、あんな感じになっちゃっただけなんだよ!」
「いいよ苗木クン。もう何も言わなくていいんだ。だから、ボクにパン」
言葉を続けないうちに、日向の鉄槌が、狛枝を吹っ飛ばした。
「すごいね、日向クン・・・・・・」
ふっとんで横たわる狛枝を見ながら、確かに日向は予備学科で特徴こそないものの、機転もきくし、喧嘩も強いし、ある程度、何でもできるのではないかと苗木は思う。その方がオールマイティですごいような気もする。
「悪かったな、苗木。だが、狛枝が言うようにここではその、あのシステムがまかり通っているんだ」
「じゃあ、狛枝クンが前に紙袋に入れたパンツを渡してきたのは錯乱してるわけじゃないんだね? よかった・・・・・・」
「いいのか? ・・・・・・まあ、苗木がいいならいいが・・・・・・とにかく、それで、ソニアと仲良くなったのにパンツがよこされないのが、ショックというのは、左右田が変態だからってわけじゃないんだ」
「あ、そうなんだ・・・・・・じゃあ、ソニアさんに頼んでみようか?」
「ちげーよ!!」
とここで左右田が叫んだ。
「そんな、頼んで貰ったって嬉しいわけねーんだよ! 俺はソニアさんから絆の証としてパンツが欲しかったんだ!」
何がどうしても、パンツが欲しかった、の下りで、強力に苗木の感情移入が妨げられる。
「そ、そう。でもそれはソニアさんが君に対して距離を感じてるってわけじゃなくて、ほら、そのパンツシステムに距離を感じてるんじゃない?」
「えー、でも私、パンツ貰ったけどぉ? こいつが単に嫌われ者なんじゃないのぉ?」
西園寺がくくく、と意地悪そうに笑って、さらに左右田が落ち込む。
「こら、そういう事言っちゃだめ! 皆一蓮托生なんだしさ!」
小泉の注意は少しばかり遅かった。
「なっ、西園寺まで? おい、日向、お前もパンツ貰ったのか?」
「いや・・・・・・それは・・・・・・」
血走った左右田の視線に耐えられず、日向はそっぽを向く。
「貰ったんだな?! うわああん、ソニアさーん!」
また左右田は砂浜に突っ伏して泣き出した。
「いや・・・・・・そもそも、そのシステムがおかしいんだよ、絶対おかしいんだよ。ほら、普通、女子に渡すのはあれでも、男子には・・・・・・」
「だったら日向は何なんだよ! 田中だってソニアさんからパンツ貰ってるって聞いたんだぞ!」
「ほ、ほら意識してる相手には渡せない、とかそういう奴じゃない?!」
どこまでも希望的で前向きな苗木の意見に、左右田はぱあっと顔を輝かせた。
「お前、いい事言うなあ! そうか、そうだよなあ! 意識してる相手にパンツなんて渡せないってあるよな、普通だよな! そうか、だとするとソニアさんは俺の事を・・・・・・そうかあ・・・・・・」
(絶対違う)と日向は思ったが、さりとて口にもできない。
苗木が与えた希望が、左右田の心臓をばっちりとらえているようなので、このままにしておくべきかもしれないと迷う。
何より今日は彼の誕生日である。少しばかりいい目を見たっていいのではないか。
「そうか! 苗木クン、そうだったのか! だから、意識しているボクにパンツを与えるのを拒んでいたんだね?! ごめんね、苗木クン、次は実力行使でパンツを貰おうなんて思ってたけど、それならやめるよ!」
「ギャー!!! 日向クーーン!!」
ゾンビのように復活した狛枝が苗木のジャージの下にすがって、脱がそうとしている。
無言で日向の拳が、もう一度狛枝を殴打した。
「う、うう、ありがとう、日向クン・・・・・・」
「いや、こっちこそ、ありがとうな・・・・・・おかげで左右田が立ち直ったみたいだしな」
「うん、そうだね・・・・・・」
幸せそうな左右田を見ながら、苗木は小さな声で「でも何でソニアさんは左右田クンにだけパンツ渡さないんだろう」と呟く。
皆の様子を見に来るうちに仲良くなってしまい、苗木ですらソニアからパンツを貰ったというのに。
「聞いたんだが、ソニアは、左右田さんは国民のみなさんと同じようなタイプだからですって言ってたな。自分を崇めてくれるところが、距離を置いて接しなければって義務感にかられるんだと・・・・・・」
「ソニアさんもソニアさんで色々、あるんだろうなあ・・・・・・」
きっと、それこそ絶望に飲み込まれるような隙が過去にあるのだろう。
でなければ、自分を崇拝してくれる左右田をここまで拒否するはずもない。
苗木は目を遠くしたが、実は人の心配をしている場合でもなかった。
「そうか! そうだったんだね苗木クン! ボクが君を崇めているから、君はボクと距離を置くべきかもしれないなんて気持ちになっちゃって、それでパンツをくれないんだねえ?」
「うわあああああ!!」
またも足に両手でとりすがられ、苗木は悲鳴をあげる。
日向は、拳を固めた。
【完】