ダンガンロンパifの続き的な・ありがちな大神さんの変化を巡る話
発端は、朝比奈が大神と過去の写真の見せ合いを行っていた事による。
メンバーの内でも特に仲のいい2人に混ざって周囲は交流を深める事も多かった。
「え、これ大神さんなの?」
苗木を始めとして、ざわざわ・・・・・・っと全員麻雀マンガ風に驚いたのは、中学までの大神さくらが美少女そのものだったからだ。今の大神は世紀末伝説の覇者に近い。
「そうだが?」
「そんな驚く事?」
「いや・・・・・・ご、ごめん、その、ほら、ちょっと、成長したなって」
「ああ、それは思う。さくらちゃん、背が低かったんだねえ」
「む・・・・・・確かに、高校に入ってから大きく伸びたな」
この会話に、全員「身長だけじゃねえだろ」と思った。苗木も思ったがツッコミを入れられなかった。
何で大神さんはこうなってしまったんだ、と貶める形になる。
そして大神は実にいい女なのである。男にしか見えないような筋肉質の外見すら大きな欠点にはならないほどの。
「やっぱり、牛乳とか飲んだの?」
「まあ嫌いではないが」
「そうかあ・・・・・・牛乳飲むと背って伸びるんだね」
この会話に、気持ちを切り替えた苗木も参入した。
彼もぜひとも背丈を伸ばしたい。小柄な背を何とかできるならケンシロウになるのも悪くない。
「もちろん修行の成果も大だろうがな・・・・・・」
「すごいなーっ、さくらちゃん。私はスイマーだから、そんなに背丈は必要ないけどさ。やっぱり肉体を改造するって点では共通するし、それを成し遂げたってとこに憧れちゃうよね。ね、一緒に修行したら私もさくらちゃんみたいに均整の取れた体になれるかな」
「いや、やめとくべきだべ?」
葉隠が性質に合わないツッコミに回るが、朝比奈はその葉隠にうろんな視線を寄越す。
「えー、葉隠クンこそ、占い師なんて言ってひょろっひょろなんだからさ、さくらちゃんを見習いなよ」
「え、遠慮するべ!!」
「案ずるな。我も最初から、この身を削るような修行につきあわせるつもりはない・・・・・・」
ふっと大神は渋く笑ってみせる。
「だが、少しならば、友と修行の拳を合わせてみるのもいいかもしれんな」
「わーい、たのしそー!!」
朝比奈の喜びようは、確実に大神とはテンションが違うので、聞いている者たちは、一人ならず不安になってくる。
「あの、よかったら、ボクも大神さんの修行、混ぜて貰っていいかな」
はい、と軽く苗木は片手をあげ、大神は「いいだろう」と頷く。
「他にも立候補するものがあるか? 応じるが」
「戦刃さんは?」
「えっ、私・・・・・・うん・・・・・・」
正直、戦刃の筋肉は、凄腕の傭兵だった頃から、既にその細い体の中にぎっしり詰まっている。だからまるっきり戦う必要もトレーニングの必要もないのだが、苗木が好きなので、誘われたら「イエス」か「はい」かしか答えがないのだ。躊躇ったのは「嬉しさ」と「信じられなさ」のせいだけである。
「そう・・・・・・だったら私も参加しようかしら」
「私も参加しますよ。いいダイエットになりそうですから」
「えっ、霧切さんと舞園さんも?」
「ぼ、ボクも参加する!!」
嬉しそうに不二咲も両手をあげる。
「きっと、大神さんみたいに男らしくなれるんだよね? 楽しみだなあ」
「な、なんだべこれ! 女子勢が全滅になるなんて、そんな絶望的な未来、嬉しくないべ!!」
「わ・・・・・・私は絶対に参加しないわよ・・・・・・そんなバカらしい・・・・・・っ」
「そうですわね、私も筋肉だるまになる気はしませんわ。女子勢に私は入れて貰ってませんの?」
「・・・・・・いやー・・・・・・なんつうか、あははは・・・・・・」
ひたすら暗い腐川とゴスロリ趣味行き過ぎのセレスに、占い師らしからぬバカ正直な反応を返した葉隠は、セレスに回し蹴りされた。腐川の方は「どっ、どうせ・・・・・・私なんて・・・・・・じょ、女子として数えないんでしょうよ、知ってるわよっ・・・・・・」と卑下を始めていた。
「他にも、誘うべき人材はいるだろうがな」
「えっ、さくらちゃん、それって・・・・・・」
「絶望の陣営たちなどはどうだろうか・・・・・・」
「えっ、えええー・・・・・・」
朝比奈が顔をひきつらせる。
悲鳴をあげた腐川の方はもっと直接的な物言いだ。
「絶対に、嫌よっ! あいつら、江ノ島盾子の仲間なんでしょ?!」
「オレも反対だ、と言いたいところだが、その筋肉修行にオレはつきあうつもりはないからな。勝手にしろ」
「ほ、ほら白夜様だって・・・・・・こう言ってるでしょ? 私は絶対・・・・・・」
「って言ってもよぉ、一応、洗脳から解けた状態なんだろ? そんないつまでも怖がっててもよ、しょうがねえじゃねえか。あ、言っとくけど、オレはつきあわねーぞ。そんなスポコン的な修行なんて、もうとっくに、何度もやったっての」
肩をすくめる桑田は「でもまあ、苗木や不二咲はやる必要あんじゃねえの」などと失礼な態度だ。
「うん、本当に大神さんみたいに大幅にルックスが男らしくなるなら、やる意味はあるよね」
「楽しみだねえ」
160センチ以下の男子たちにとって、可愛い容姿を失う事なんて、何のリスクでもなかったりするのだ。
「きっと九頭竜クンも、大賛成すると思うよ」
「やっぱり、そうだよね! 大神さんみたいになれるならボク、どんなプログラムと引き替えにしてもいいもの!」
その価値が大神さくらに通用するわけもないのだが、不二咲は真剣である。
「それは違うな・・・・・・ボクは反対するよ」
「狛枝クン!」
狛枝凪斗。絶望の陣営の人間の一人であり、人格としては登場して早々、「苗木クンは今日も可愛いね」と手を握るような男である。
「あ、ありがとう・・・・・・って礼を言うところかな、ここって。ボク、男だし、あまり嬉しくないんだけど」
「ご、ごめんね。苗木クン・・・・・・ボクなんかに可愛いって言われても嬉しくないよね。それは分かるよ。でも、苗木クンの可愛さが失われるなんて世界の損失なんだよ、分かるだろ? ね、黙ってるけど、舞園さんと霧切さんはきっとボクと同じ気持ちだよ。可愛い苗木クンがああなっちゃったら、どうするの?」
「そこまで、やらないで手前くらいでやめておけばいいんじゃないかしら。そのために私が参加するのよ」
苗木保護クラブというものが作られたとしたら、霧切は会長になれるくらいの行動を起こしている。
「わ、私も・・・・・・」
おずおずと口を開きかけた戦刃の横で、今度は舞園が片手をあげて「私だって苗木クンを守ります!」と宣言してくれてしまう。
(私も苗木クンを守りたい・・・・・・)と戦刃は無言で頷くだけにとどめた。
「君たちは女子だろ? どう考えてもボクの方が、苗木クンを守るにふさわしいよ。ねっ、苗木クン」
残念なほどに控えめな戦刃だが、この狛枝の発言には理不尽を感じた。
だって苗木の顔がひきつっているからだ。
それに女子といっても戦刃は成人男性すら圧倒できるほど強いからだ。
だが控えめなので言い出せない。残念。
「ねっ、苗木クンが修行に参加させられるくらいなら、ボクが参加するよ!」
「っていうか、させられる、じゃなくて、ボクは参加したいんだけど・・・・・・」
「いいんだよ、苗木クン何も遠慮しなくても」
「必要ないよね?」
狛枝は背丈も大きいし、体力も運動神経も抜群にある。
「やめておけ、狛枝!」
「あっ、日向クン。日向クンはもともとムキムキ系でしょ。ガテン系でしょ。何? 日向クンも必要ないのに苗木クンの代わりに参加して、超高校級な苗木クンの点数を稼ごうって事? ずるいよ、日向クン・・・・・・」
「お前だって必要ないだろっ」
確かに日向も体格がいい。二人揃って美丈夫という感じだ。
二人揃って美少年な苗木や不二咲とはわけが違う。これが87期と88期の違いだというのか。
「苗木クン・・・・・・必要ある身としては悲しいね・・・・・・」
「うん・・・・・・ボクは気にしないけど胸の大きな女子を羨ましがる女子ってこんな感じなのかなあ・・・・・・」
目が絶望に濁りがちな2人に、日向がフォローを入れる。
「大丈夫だ、オレたちなんて図体がでかいだけなんだ」
「そうだよ、なにせ日向クンなんて予備学科なんだから」
「今関係ないだろ、それ。ってか、オレだけ落とすな」
「とにかく、日向クンだって苗木クンの可愛い可愛い肉体が、鋼鉄のような男らしさを誇る北斗のうんたらじみた物になってしまうなんて、世界的損失だと思ってるでしょ?」
「オレまで変態にするな。それはお前の考えだろ」
「ボクは当然、思ってるよ。世界全土も、そう思ってると思うよ」
「世界全てを変態の巣窟にするな。少なくともオレは思ってない」
「え、日向クンは苗木クンが可愛いと思わないの? ひどいね」
「苗木は可愛いっていうより、かっこいいだろ?」
少なくとも江ノ島の洗脳から、助けられた日向は、そう思っている。
のだが、この意見は異端だった。
何しろ苗木を愛している舞園や霧切や戦刃からして(新しい意見・・・・・・)と思っているのだから、世話がない。
「日向クンありがとう。ボク、そんな事、言って貰えたの、初めてだよ」
だからこそ苗木の心には響いたようで、ぎゅっと日向の手を握る。
「ああっ、何でそうなるの?! 予備学科なのに!」
「まあ、お前と違って人生の予備学科じゃないからな・・・・・・」
と言ったのは、いつの間にか登場していた九頭竜である。
「オレも是が非でも参加させてもらうぜ!」
「やっぱり九頭竜クンもそうだよね・・・・・・気持ち分かるよ」
シンパシー溢れさせる苗木。
しかし、朝比奈は青い顔になって、それとなく、大神さくらの袖を掴んでいる。
良識があるから怖いとは言えないのだ。
「な、何よっ・・・・・・絶望に染まってたくせに、近づかないでよっ・・・・・・あ、危ないわ・・・・・・」
良識のない腐川の方はきっぱりと口を出す。
それを許す九頭竜ではない。
「あんだとお?」
「うっ、うわわわ、ちょっ、だめだよ、喧嘩はっ」
「坊ちゃま」
音もなく横から出てきた辺古山に、腐川は「ひい」と変なポーズで怯えた。じぇのサイダーになれば別だが、彼女には戦闘能力がない。
だが辺古山に攻撃する気などない。深々と頭を下げた。
「すまない。私に免じて許してくれないだろうか」
「・・・・・・なっ、何よっ」
「私もこの修行に加わりたいと思う。坊ちゃまのためだ」
「なっ、何言ってんだよ、ペコ。お前は必要ないだろ! お前がそれ以上でかくなってどうすんだよ!」
「私は常に坊ちゃまと一緒です。坊ちゃまが強くなられるなら私もお供します」
「うあー、これまた、もったいないべ、女子が大きく強そーになる必要とかどこにもないべ・・・・・・」
「あー! 何それ! そういうの男女差別でしょ?!」
暗澹とする葉隠に、朝比奈がまっとうな意見をつきつける。
まっとうな意見だが、この場にいる男子の大半は、葉隠寄りの意見を持っている事だろう。
そもそも、中学時代までの大神の写真を見る限り、なぜこんなに変化したのか、分からないほど美少女なのだ。
「確かに少し背は伸びたし胸囲もあがりはしたがな・・・・・・ふっ」
ちなみに変化した当人は自分の変化にあまり気づいていない。
「なんかさ、さくらちゃん、一緒に修行してた彼氏の人いたんだよね?」
「単なる幼なじみで好敵手だ」
「さくらちゃんの変化に何か言ったりしてこなかったの?」
(あ、朝比奈さん、すごいなあ・・・・・・がんがんつっこんでる・・・・・・大神さんと仲がいい事もあるだろうけど、ボクには無理だなあ)と苗木が横を見ると、同じような表情の日向がいる。共感。
「特にはな。それ以上大きくなると、オレが持ち上げられなくなると言われたか」
「キャー! なにそれ、やっぱりさくらちゃんの事好きなんじゃない?」
「違う」
両手をぐるぐるまわして一人フィーバーしている朝比奈。
つとめて冷静に対応しているが、大神は、どことなく落ち着かなさげだ。
(その台詞なら、たしかにボクもそう思うなあ)と思ったが、これ以上大神を動揺させるのも可哀想で、苗木は口に出さない。
「ま、急に外見が変化したとしても、中身がそうそう変わるわけじゃないからな」
「うん、それについては、日向クンの意見に同意するよ」
「たとえば、苗木が、その、大神みたいに強く大きくなったとしても・・・・・・オレは、大丈夫だと思う」
何がどう大丈夫なのか分からないが、日向創は言ってから「いや苗木は苗木だしな」と気恥ずかしそうに笑ってくれる。
「???? う、うん?」
分からないなりに分かったふりで、大丈夫というからには、いい意味なのだろうと、苗木は解釈する。
「ボクも日向クンが大きくなったとしても違和感を感じないと思うよ」
元来の体格が立派な日向だから、あまり変化を感じないはずだった。
それにしても日向の言葉に影響を受けたのか、辺古山も九頭龍に「坊ちゃまが立派になられても私は変わりません」と主張しているし、舞園と霧切も「私だって変わらないから」と苗木に言ってくる。
そして、いつもの通りに、背後で戦刃は何か言いたげにしている。
「ねえ、苗木クン、ボクは? ボクが変化しても、苗木クンだって変わらないよね」
話題に割り込んだ狛枝に、全員がいったん、黙った。
狛枝の長所の大きな一つが、一応見目整った外見にあるからである。
「狛枝、やめとけ。お前は外面失ったら、大変な事になるだろ」
「えー何で日向クン、予備学科のくせに、ボクがかっこいいとか、言ってるの? こんなゴミくずみたいなボクを」
ネガティブなのかポジティブなのか分からない狛枝の手を、汗をかきながら苗木が握る。
「こ、狛枝クンはやめて欲しいかな・・・・・・」
「苗木クン・・・・・・」
ちゃっかりその手をさらに上から握る狛枝。普段暗い輝きを宿した瞳は、今はやみくもにきらきらして動物的ですらある。歪んだポジティブさだ、
「ああっ、苗木クンもボクの容姿を気に入ってくれてるんだね。うれしいよ!」
「いや、うん・・・・・・」
(そういうわけじゃないんだけど・・・・・・)と苗木は心の中でだけ反論する。
おもいっきり、狂人に刃物、という気分がするのである。
自分たちが全員ムキムキの筋肉質人間になってしまえば、それはそれでいいような気もするが、そうはならずに狛枝だけムキムキになるという絶望的結末を考えたのだ。
原始人が獲物にするように、肩に抱えられてさらわれていく。
(・・・・・・ありそうで怖い)
「狛枝クンは、今のままの方がいいよ。いろんな意味で」
「そうだ。お前は中身がダメなんだから、そのままの方がいい」
「日向クン、言葉を選ばないのって予備学科だから?」
「お前を止めるために言葉のナイフを使ってるからだ」
【完】
発端は、朝比奈が大神と過去の写真の見せ合いを行っていた事による。
メンバーの内でも特に仲のいい2人に混ざって周囲は交流を深める事も多かった。
「え、これ大神さんなの?」
苗木を始めとして、ざわざわ・・・・・・っと全員麻雀マンガ風に驚いたのは、中学までの大神さくらが美少女そのものだったからだ。今の大神は世紀末伝説の覇者に近い。
「そうだが?」
「そんな驚く事?」
「いや・・・・・・ご、ごめん、その、ほら、ちょっと、成長したなって」
「ああ、それは思う。さくらちゃん、背が低かったんだねえ」
「む・・・・・・確かに、高校に入ってから大きく伸びたな」
この会話に、全員「身長だけじゃねえだろ」と思った。苗木も思ったがツッコミを入れられなかった。
何で大神さんはこうなってしまったんだ、と貶める形になる。
そして大神は実にいい女なのである。男にしか見えないような筋肉質の外見すら大きな欠点にはならないほどの。
「やっぱり、牛乳とか飲んだの?」
「まあ嫌いではないが」
「そうかあ・・・・・・牛乳飲むと背って伸びるんだね」
この会話に、気持ちを切り替えた苗木も参入した。
彼もぜひとも背丈を伸ばしたい。小柄な背を何とかできるならケンシロウになるのも悪くない。
「もちろん修行の成果も大だろうがな・・・・・・」
「すごいなーっ、さくらちゃん。私はスイマーだから、そんなに背丈は必要ないけどさ。やっぱり肉体を改造するって点では共通するし、それを成し遂げたってとこに憧れちゃうよね。ね、一緒に修行したら私もさくらちゃんみたいに均整の取れた体になれるかな」
「いや、やめとくべきだべ?」
葉隠が性質に合わないツッコミに回るが、朝比奈はその葉隠にうろんな視線を寄越す。
「えー、葉隠クンこそ、占い師なんて言ってひょろっひょろなんだからさ、さくらちゃんを見習いなよ」
「え、遠慮するべ!!」
「案ずるな。我も最初から、この身を削るような修行につきあわせるつもりはない・・・・・・」
ふっと大神は渋く笑ってみせる。
「だが、少しならば、友と修行の拳を合わせてみるのもいいかもしれんな」
「わーい、たのしそー!!」
朝比奈の喜びようは、確実に大神とはテンションが違うので、聞いている者たちは、一人ならず不安になってくる。
「あの、よかったら、ボクも大神さんの修行、混ぜて貰っていいかな」
はい、と軽く苗木は片手をあげ、大神は「いいだろう」と頷く。
「他にも立候補するものがあるか? 応じるが」
「戦刃さんは?」
「えっ、私・・・・・・うん・・・・・・」
正直、戦刃の筋肉は、凄腕の傭兵だった頃から、既にその細い体の中にぎっしり詰まっている。だからまるっきり戦う必要もトレーニングの必要もないのだが、苗木が好きなので、誘われたら「イエス」か「はい」かしか答えがないのだ。躊躇ったのは「嬉しさ」と「信じられなさ」のせいだけである。
「そう・・・・・・だったら私も参加しようかしら」
「私も参加しますよ。いいダイエットになりそうですから」
「えっ、霧切さんと舞園さんも?」
「ぼ、ボクも参加する!!」
嬉しそうに不二咲も両手をあげる。
「きっと、大神さんみたいに男らしくなれるんだよね? 楽しみだなあ」
「な、なんだべこれ! 女子勢が全滅になるなんて、そんな絶望的な未来、嬉しくないべ!!」
「わ・・・・・・私は絶対に参加しないわよ・・・・・・そんなバカらしい・・・・・・っ」
「そうですわね、私も筋肉だるまになる気はしませんわ。女子勢に私は入れて貰ってませんの?」
「・・・・・・いやー・・・・・・なんつうか、あははは・・・・・・」
ひたすら暗い腐川とゴスロリ趣味行き過ぎのセレスに、占い師らしからぬバカ正直な反応を返した葉隠は、セレスに回し蹴りされた。腐川の方は「どっ、どうせ・・・・・・私なんて・・・・・・じょ、女子として数えないんでしょうよ、知ってるわよっ・・・・・・」と卑下を始めていた。
「他にも、誘うべき人材はいるだろうがな」
「えっ、さくらちゃん、それって・・・・・・」
「絶望の陣営たちなどはどうだろうか・・・・・・」
「えっ、えええー・・・・・・」
朝比奈が顔をひきつらせる。
悲鳴をあげた腐川の方はもっと直接的な物言いだ。
「絶対に、嫌よっ! あいつら、江ノ島盾子の仲間なんでしょ?!」
「オレも反対だ、と言いたいところだが、その筋肉修行にオレはつきあうつもりはないからな。勝手にしろ」
「ほ、ほら白夜様だって・・・・・・こう言ってるでしょ? 私は絶対・・・・・・」
「って言ってもよぉ、一応、洗脳から解けた状態なんだろ? そんないつまでも怖がっててもよ、しょうがねえじゃねえか。あ、言っとくけど、オレはつきあわねーぞ。そんなスポコン的な修行なんて、もうとっくに、何度もやったっての」
肩をすくめる桑田は「でもまあ、苗木や不二咲はやる必要あんじゃねえの」などと失礼な態度だ。
「うん、本当に大神さんみたいに大幅にルックスが男らしくなるなら、やる意味はあるよね」
「楽しみだねえ」
160センチ以下の男子たちにとって、可愛い容姿を失う事なんて、何のリスクでもなかったりするのだ。
「きっと九頭竜クンも、大賛成すると思うよ」
「やっぱり、そうだよね! 大神さんみたいになれるならボク、どんなプログラムと引き替えにしてもいいもの!」
その価値が大神さくらに通用するわけもないのだが、不二咲は真剣である。
「それは違うな・・・・・・ボクは反対するよ」
「狛枝クン!」
狛枝凪斗。絶望の陣営の人間の一人であり、人格としては登場して早々、「苗木クンは今日も可愛いね」と手を握るような男である。
「あ、ありがとう・・・・・・って礼を言うところかな、ここって。ボク、男だし、あまり嬉しくないんだけど」
「ご、ごめんね。苗木クン・・・・・・ボクなんかに可愛いって言われても嬉しくないよね。それは分かるよ。でも、苗木クンの可愛さが失われるなんて世界の損失なんだよ、分かるだろ? ね、黙ってるけど、舞園さんと霧切さんはきっとボクと同じ気持ちだよ。可愛い苗木クンがああなっちゃったら、どうするの?」
「そこまで、やらないで手前くらいでやめておけばいいんじゃないかしら。そのために私が参加するのよ」
苗木保護クラブというものが作られたとしたら、霧切は会長になれるくらいの行動を起こしている。
「わ、私も・・・・・・」
おずおずと口を開きかけた戦刃の横で、今度は舞園が片手をあげて「私だって苗木クンを守ります!」と宣言してくれてしまう。
(私も苗木クンを守りたい・・・・・・)と戦刃は無言で頷くだけにとどめた。
「君たちは女子だろ? どう考えてもボクの方が、苗木クンを守るにふさわしいよ。ねっ、苗木クン」
残念なほどに控えめな戦刃だが、この狛枝の発言には理不尽を感じた。
だって苗木の顔がひきつっているからだ。
それに女子といっても戦刃は成人男性すら圧倒できるほど強いからだ。
だが控えめなので言い出せない。残念。
「ねっ、苗木クンが修行に参加させられるくらいなら、ボクが参加するよ!」
「っていうか、させられる、じゃなくて、ボクは参加したいんだけど・・・・・・」
「いいんだよ、苗木クン何も遠慮しなくても」
「必要ないよね?」
狛枝は背丈も大きいし、体力も運動神経も抜群にある。
「やめておけ、狛枝!」
「あっ、日向クン。日向クンはもともとムキムキ系でしょ。ガテン系でしょ。何? 日向クンも必要ないのに苗木クンの代わりに参加して、超高校級な苗木クンの点数を稼ごうって事? ずるいよ、日向クン・・・・・・」
「お前だって必要ないだろっ」
確かに日向も体格がいい。二人揃って美丈夫という感じだ。
二人揃って美少年な苗木や不二咲とはわけが違う。これが87期と88期の違いだというのか。
「苗木クン・・・・・・必要ある身としては悲しいね・・・・・・」
「うん・・・・・・ボクは気にしないけど胸の大きな女子を羨ましがる女子ってこんな感じなのかなあ・・・・・・」
目が絶望に濁りがちな2人に、日向がフォローを入れる。
「大丈夫だ、オレたちなんて図体がでかいだけなんだ」
「そうだよ、なにせ日向クンなんて予備学科なんだから」
「今関係ないだろ、それ。ってか、オレだけ落とすな」
「とにかく、日向クンだって苗木クンの可愛い可愛い肉体が、鋼鉄のような男らしさを誇る北斗のうんたらじみた物になってしまうなんて、世界的損失だと思ってるでしょ?」
「オレまで変態にするな。それはお前の考えだろ」
「ボクは当然、思ってるよ。世界全土も、そう思ってると思うよ」
「世界全てを変態の巣窟にするな。少なくともオレは思ってない」
「え、日向クンは苗木クンが可愛いと思わないの? ひどいね」
「苗木は可愛いっていうより、かっこいいだろ?」
少なくとも江ノ島の洗脳から、助けられた日向は、そう思っている。
のだが、この意見は異端だった。
何しろ苗木を愛している舞園や霧切や戦刃からして(新しい意見・・・・・・)と思っているのだから、世話がない。
「日向クンありがとう。ボク、そんな事、言って貰えたの、初めてだよ」
だからこそ苗木の心には響いたようで、ぎゅっと日向の手を握る。
「ああっ、何でそうなるの?! 予備学科なのに!」
「まあ、お前と違って人生の予備学科じゃないからな・・・・・・」
と言ったのは、いつの間にか登場していた九頭竜である。
「オレも是が非でも参加させてもらうぜ!」
「やっぱり九頭竜クンもそうだよね・・・・・・気持ち分かるよ」
シンパシー溢れさせる苗木。
しかし、朝比奈は青い顔になって、それとなく、大神さくらの袖を掴んでいる。
良識があるから怖いとは言えないのだ。
「な、何よっ・・・・・・絶望に染まってたくせに、近づかないでよっ・・・・・・あ、危ないわ・・・・・・」
良識のない腐川の方はきっぱりと口を出す。
それを許す九頭竜ではない。
「あんだとお?」
「うっ、うわわわ、ちょっ、だめだよ、喧嘩はっ」
「坊ちゃま」
音もなく横から出てきた辺古山に、腐川は「ひい」と変なポーズで怯えた。じぇのサイダーになれば別だが、彼女には戦闘能力がない。
だが辺古山に攻撃する気などない。深々と頭を下げた。
「すまない。私に免じて許してくれないだろうか」
「・・・・・・なっ、何よっ」
「私もこの修行に加わりたいと思う。坊ちゃまのためだ」
「なっ、何言ってんだよ、ペコ。お前は必要ないだろ! お前がそれ以上でかくなってどうすんだよ!」
「私は常に坊ちゃまと一緒です。坊ちゃまが強くなられるなら私もお供します」
「うあー、これまた、もったいないべ、女子が大きく強そーになる必要とかどこにもないべ・・・・・・」
「あー! 何それ! そういうの男女差別でしょ?!」
暗澹とする葉隠に、朝比奈がまっとうな意見をつきつける。
まっとうな意見だが、この場にいる男子の大半は、葉隠寄りの意見を持っている事だろう。
そもそも、中学時代までの大神の写真を見る限り、なぜこんなに変化したのか、分からないほど美少女なのだ。
「確かに少し背は伸びたし胸囲もあがりはしたがな・・・・・・ふっ」
ちなみに変化した当人は自分の変化にあまり気づいていない。
「なんかさ、さくらちゃん、一緒に修行してた彼氏の人いたんだよね?」
「単なる幼なじみで好敵手だ」
「さくらちゃんの変化に何か言ったりしてこなかったの?」
(あ、朝比奈さん、すごいなあ・・・・・・がんがんつっこんでる・・・・・・大神さんと仲がいい事もあるだろうけど、ボクには無理だなあ)と苗木が横を見ると、同じような表情の日向がいる。共感。
「特にはな。それ以上大きくなると、オレが持ち上げられなくなると言われたか」
「キャー! なにそれ、やっぱりさくらちゃんの事好きなんじゃない?」
「違う」
両手をぐるぐるまわして一人フィーバーしている朝比奈。
つとめて冷静に対応しているが、大神は、どことなく落ち着かなさげだ。
(その台詞なら、たしかにボクもそう思うなあ)と思ったが、これ以上大神を動揺させるのも可哀想で、苗木は口に出さない。
「ま、急に外見が変化したとしても、中身がそうそう変わるわけじゃないからな」
「うん、それについては、日向クンの意見に同意するよ」
「たとえば、苗木が、その、大神みたいに強く大きくなったとしても・・・・・・オレは、大丈夫だと思う」
何がどう大丈夫なのか分からないが、日向創は言ってから「いや苗木は苗木だしな」と気恥ずかしそうに笑ってくれる。
「???? う、うん?」
分からないなりに分かったふりで、大丈夫というからには、いい意味なのだろうと、苗木は解釈する。
「ボクも日向クンが大きくなったとしても違和感を感じないと思うよ」
元来の体格が立派な日向だから、あまり変化を感じないはずだった。
それにしても日向の言葉に影響を受けたのか、辺古山も九頭龍に「坊ちゃまが立派になられても私は変わりません」と主張しているし、舞園と霧切も「私だって変わらないから」と苗木に言ってくる。
そして、いつもの通りに、背後で戦刃は何か言いたげにしている。
「ねえ、苗木クン、ボクは? ボクが変化しても、苗木クンだって変わらないよね」
話題に割り込んだ狛枝に、全員がいったん、黙った。
狛枝の長所の大きな一つが、一応見目整った外見にあるからである。
「狛枝、やめとけ。お前は外面失ったら、大変な事になるだろ」
「えー何で日向クン、予備学科のくせに、ボクがかっこいいとか、言ってるの? こんなゴミくずみたいなボクを」
ネガティブなのかポジティブなのか分からない狛枝の手を、汗をかきながら苗木が握る。
「こ、狛枝クンはやめて欲しいかな・・・・・・」
「苗木クン・・・・・・」
ちゃっかりその手をさらに上から握る狛枝。普段暗い輝きを宿した瞳は、今はやみくもにきらきらして動物的ですらある。歪んだポジティブさだ、
「ああっ、苗木クンもボクの容姿を気に入ってくれてるんだね。うれしいよ!」
「いや、うん・・・・・・」
(そういうわけじゃないんだけど・・・・・・)と苗木は心の中でだけ反論する。
おもいっきり、狂人に刃物、という気分がするのである。
自分たちが全員ムキムキの筋肉質人間になってしまえば、それはそれでいいような気もするが、そうはならずに狛枝だけムキムキになるという絶望的結末を考えたのだ。
原始人が獲物にするように、肩に抱えられてさらわれていく。
(・・・・・・ありそうで怖い)
「狛枝クンは、今のままの方がいいよ。いろんな意味で」
「そうだ。お前は中身がダメなんだから、そのままの方がいい」
「日向クン、言葉を選ばないのって予備学科だから?」
「お前を止めるために言葉のナイフを使ってるからだ」
【完】