日苗誕生日SS。(幸せにしようと頑張ってる形跡があります)
一月一日。
あけましておめでとうございます、の日であり、日向創の生まれた日でもある。
祝い事が重なってめでたいと思う人間もいるかもしれない。
しかし、誕生日プレゼントとお年玉は見事にセットにされて省略されがちだ。
本当なら二つ貰えるものが一つになっている。
おまけに友人を家に呼んで誕生日パーティーをするなんて夢のまた夢。
新学期になった時には忘れ去られている。
「そういう正月から損をするのが俺の毎年なんだっ……!」
悔しそうに呻く日向に苗木は「クリスマスイブに生まれた江ノ島さんも同じよーな事言ってたよ」と言う。ちなみにむくろの方はそんな事を少しも思わなかったらしい。
「イベントと誕生日重なる……それがあの女を絶望に駆り立てた理由かもしれないな……」
「それはたぶん違うよ……」
苗木は優しくツッコミを入れてくれる。
「今年は日向クンのために皆でケーキを作ったんだよ。皆っていうか花村クンにお願いしてだけど。ね、花村クン」
「これで喜んでもらえるなら安いものだよ。ま、青山の店で出してたケーキに比べたら材料の点で劣るけどね」
カールした髪の毛を撫でつけて、花村。
彼の作ったケーキに女子の目は釘づけである。
「いやあモテて困るよ、ふふふ」などと言っているがモテているのはケーキである。
「それとさ、やっぱり正月って言ったらおせちでしょ。それもちゃんと用意したしね!」
着物姿が今日という日にやたら似合っている西園寺が「じゃーん」と指さす方向にはおせちがある。
おせちとケーキ。
何となくめでたいのは分かるが食い合わせ的にどうか問われる取り合わせである。
「やっぱり! やっぱりこうなるのかっ…くっ…」
がっくりと日向は膝をついた。
「ひっ、日向クン、どうしたの?!」
「毎年こうだった! 絶対に合わない食い合わせと言っていいのに、必ず俺の誕生日パーティーの食べ物はおせちなんだっ!」
「そんなに合わないわけじゃないでしょ、お兄。和食って主張しないから何にでもあうしー」
と西園寺は弁明するが「違う!」と日向は叫ぶ。
「そのうち、おせちが主役を奪っていく! 年間の公式な行事である正月に、一介の俺なんかの誕生日が勝てるわけ、ないんだ!」
「日向さん、可哀想ですぅ……お正月で自分の誕生日が潰されるのがトラウマになってるんですねぇ……」
さすがトラウマ満載の罪木は理解できるらしい。
彼女は別に正月に生まれてもいないのに目に涙が浮かんでいる。
「って言うか、皆で祝ってんのに、そのがっかり態度ってないんじゃないの?」
一方の小泉は委員長気質なので、容赦なく誕生日の日向にすら駄目だしをしてくる。
まあまあと苗木が小泉を宥めた。
「一応、誕生日らしいものをってことで、普通の料理も作っておいてもらったんだよ!」
「な、苗木い、好きだ!!」
「うわあ」
がばあっと抱きつかれて苗木はその場に倒れる。
日向とでは体格が違いすぎるのである。
「あ、わ、悪い……」
「ううん。喜んでもらえてよかったよ」
「作ったのはボクなんだけどね。遠慮なく抱きついていいよ、ふふふ」
嫌そうな顔をした数秒の間の後、笑顔になった日向は握手の手を差し出した。
「ありがとうな、花村」
「腑に落ちないけど、一応礼は受け取っておくよ」
適材適所というものがある。
「だったらボクも苗木クンに抱きついてもいいかな、あはん?」
「それはだめだ」
となぜか日向が強硬に断る。
「一人許すと他の人間も抱きつくだろ。狛枝が苗木に抱きついて苗木が能力の影響で何かあったらどうする?」
「それでなんで日向お兄はいいの?」
自分に関係ない事でも、興味のある話には一応嘴を突っ込む西園寺だ。
「俺はっ…俺は、他意がないからいいんだ」
「なるほど。ま、日向お兄なら、女子に抱きついても他意なさそーだよね。なんか危なくないっていうか」
それは日向の女子に対する物慣れなさ故と言っていいだろう。
辛辣な西園寺も、日向に対しては懐いているので、これは別にきつい一言ではなかった。
訂正・きつい一言としての狙いで発された言葉ではなかった。
しかし、日向は傷ついた。
顔に斜線があからさまに引かれた。
また、小泉の「日寄子ちゃんそういう事言っちゃだめなんだよ!」という教育的指導がさらにショックに拍車をかけた。
「日向クン、しっかり!」
こういう時、日向にとって頼りになるのが何より苗木である。
「ボクは日向クン、ちゃんと危ないと思うよ!」
ちゃんと危ないというのが文脈からどうなのかというところはあるにしても。
「あっ、ありがとう苗木……」
日向がじっと苗木を見つめ、苗木もまた日向を見つめる。
全員、日向が傷ついた心を抱えたまま、どこかに走り出さなかった事にほっとした(小泉に口をふさがれている西園寺も)。
だからしばらくして日向が我にかえったように顔を赤らめてきょろきょろと挙動不審にあたりを見回しても、つっこむのをよした。
皆、これ以上の面倒は避けたかったからだ。
そしてそれからは和やかに誕生日パーティーが続いたのだった。
日向はかたくなにおせちを食べようとしなかったが、普通の料理の方は熱心に食べていた。
****
「ありがとうな、苗木。お前のおかげで今日はいい誕生日になったよ」
「よかった」
と苗木は、目を細めて笑う。少し得意そうでもある。
一人輪を離れて、未来機関に連絡を入れていたところだったが日向が来たので、携帯は懐にしまった。
「その……けど」
「けど?」
「それってさ、その、苗木の未来機関での仕事なんだよな? 俺らの精神を安定させるってのも仕事のうちなんだよな?」
「そうだけど、だからって、いやいややってるわけじゃないよ?」
「あ、うん、それは分かってるんだ」
目を丸くした苗木が必死に言ってくるのに日向は苦笑した。
「お前たちが言ってくれて、処分されそうになった俺らを助けてくれたんだしな。そーじゃなくてさ、その、俺たち、結構立ち直ってきてるだろ? 必要なくなったら、もう苗木には会えなくなるのかと思ってさ」
「そんな事ないよ! きっと!」
「推測入ってるのかよ」
やっぱりなと日向は苦笑した。
「お前の手伝いをしたいって考えもしたんだ。俺ならきっと挫折や絶望した奴らの気持ちだけはお前より分かるからな」
「それすごいよ日向クン!」
苗木が顔を輝かせるところまでは日向も想像していた。
「でもさ、問題もあるわけだ。俺がそっちの気持ちに引きずられるかもなっていう懸念さ。実際そうなりそうで怖いんだ」
「……日向クン……」
「だからさ働くにしても説得じゃなくて事務かな。俺をもう一回カムクラにできたら、きっとお前の役に立てるのにな」
「それもう一回言ったらグーで殴るよ」
真剣な顔で拳をかまえているが、チワワがすごんだのと同じくらいの凄味しかない。
殴られたいと日向は一瞬思って(いや俺はそーいうのとは違う)と否定した。
「分かってるよ。俺も希望ヶ峰も間違ってたって言うんだろ?」
しょせんカムクラは作られすぎて意志に乏しかった。
本当に超高校級の希望なら江ノ島とも戦えたはずだが、そんな事はなかった。
「だけど、未来機関は、俺をリセットして、カムクラにって考えてるかもしれないぜ」
「! 誰かに何か言われたの?」
「いや、そうじゃなくてさ。ちょっと考えたんだ。カムクラは結局二歳くらいまでしか生きられなかったんだなってさ」
「あれは日向クンがおかしくなってた頃で」
「かもな。けど、何ていうのかな、俺、ほらメンタルが弱めだろ」
これはかなり美化した言い方であり、はっきり言うと、貧弱な自覚がある。
「だからかな、時々カムクラが自分の弟みたいな気がするんだよな」
「それはきっと弱さじゃなくて日向クンが優しいからだよ」
正直に言えば苗木は日向の弱さは全て優しさに通じるのだろうなと思っている。
妙なこだわりやコンプレックスは好かれたいからで、要するに人間が好きなのだ。
他人との比較など、世界のどこかに放り出し、自分の趣味に突っ走る超高校級とは対極の存在だ。
「ボク、そういう日向クンって好きだよ」
「苗木……」
どきどきして日向は「違う! オレはそういうアレじゃない!」と絶叫した。
「だ、大丈夫、日向クン?」
今度こそ苗木は日向を心配したが、大丈夫だったようだ。
「ああ、平気だ」
ぜいぜいと息を切らしながら言う。
「なんか、最近、日向クン、ボクがいる方が大丈夫じゃなくなる確率が増えてる気がして心配なんだけど」
「そ、そんな事ない!!」
それで苗木が日向といるのを止めようと思ったら大変なので、日向は慌てて否定しておく。
「それはその……たぶん……なんていうか、苗木がこう……いや違う……」
また人のせいにしようとした。
周囲を拒もうとしたと気付いて、日向は頭を抱える。
しかし、自分に問題があると思えばカムクラになりたいしか浮かばない。
今、猛烈にカムクラになりたかった。今日の誕生日パーティーだってカムクラなら無表情にやり通すのではないか。
おせちだって無言でぱくつくだろうし、苗木と平気な顔でいられるのではないだろうか。
「俺は、苗木の事が好きなんだ」
「ボクも日向クンが好きだよ」
けろっとした顔で言われて、脱力する。
しかし、絶望にはならなかった。
「そういう意味だったとしても大丈夫だよ」
と苗木が心を読んだようにまっすぐな目で言うからだ。
「え、それってその、どういう、ええと……」
頭を抱えて悩み始めた日向の前で、苗木が「そこは頑張って自分で考えてほしいな」と言う。
やっぱりかわいいなと思った。そして、もう、カムクラになりたいとは思わなかった。
(だって俺カムクラになると記憶なくなるしな……)
今日の誕生日は覚えていたかった。
【完】
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一月一日。
あけましておめでとうございます、の日であり、日向創の生まれた日でもある。
祝い事が重なってめでたいと思う人間もいるかもしれない。
しかし、誕生日プレゼントとお年玉は見事にセットにされて省略されがちだ。
本当なら二つ貰えるものが一つになっている。
おまけに友人を家に呼んで誕生日パーティーをするなんて夢のまた夢。
新学期になった時には忘れ去られている。
「そういう正月から損をするのが俺の毎年なんだっ……!」
悔しそうに呻く日向に苗木は「クリスマスイブに生まれた江ノ島さんも同じよーな事言ってたよ」と言う。ちなみにむくろの方はそんな事を少しも思わなかったらしい。
「イベントと誕生日重なる……それがあの女を絶望に駆り立てた理由かもしれないな……」
「それはたぶん違うよ……」
苗木は優しくツッコミを入れてくれる。
「今年は日向クンのために皆でケーキを作ったんだよ。皆っていうか花村クンにお願いしてだけど。ね、花村クン」
「これで喜んでもらえるなら安いものだよ。ま、青山の店で出してたケーキに比べたら材料の点で劣るけどね」
カールした髪の毛を撫でつけて、花村。
彼の作ったケーキに女子の目は釘づけである。
「いやあモテて困るよ、ふふふ」などと言っているがモテているのはケーキである。
「それとさ、やっぱり正月って言ったらおせちでしょ。それもちゃんと用意したしね!」
着物姿が今日という日にやたら似合っている西園寺が「じゃーん」と指さす方向にはおせちがある。
おせちとケーキ。
何となくめでたいのは分かるが食い合わせ的にどうか問われる取り合わせである。
「やっぱり! やっぱりこうなるのかっ…くっ…」
がっくりと日向は膝をついた。
「ひっ、日向クン、どうしたの?!」
「毎年こうだった! 絶対に合わない食い合わせと言っていいのに、必ず俺の誕生日パーティーの食べ物はおせちなんだっ!」
「そんなに合わないわけじゃないでしょ、お兄。和食って主張しないから何にでもあうしー」
と西園寺は弁明するが「違う!」と日向は叫ぶ。
「そのうち、おせちが主役を奪っていく! 年間の公式な行事である正月に、一介の俺なんかの誕生日が勝てるわけ、ないんだ!」
「日向さん、可哀想ですぅ……お正月で自分の誕生日が潰されるのがトラウマになってるんですねぇ……」
さすがトラウマ満載の罪木は理解できるらしい。
彼女は別に正月に生まれてもいないのに目に涙が浮かんでいる。
「って言うか、皆で祝ってんのに、そのがっかり態度ってないんじゃないの?」
一方の小泉は委員長気質なので、容赦なく誕生日の日向にすら駄目だしをしてくる。
まあまあと苗木が小泉を宥めた。
「一応、誕生日らしいものをってことで、普通の料理も作っておいてもらったんだよ!」
「な、苗木い、好きだ!!」
「うわあ」
がばあっと抱きつかれて苗木はその場に倒れる。
日向とでは体格が違いすぎるのである。
「あ、わ、悪い……」
「ううん。喜んでもらえてよかったよ」
「作ったのはボクなんだけどね。遠慮なく抱きついていいよ、ふふふ」
嫌そうな顔をした数秒の間の後、笑顔になった日向は握手の手を差し出した。
「ありがとうな、花村」
「腑に落ちないけど、一応礼は受け取っておくよ」
適材適所というものがある。
「だったらボクも苗木クンに抱きついてもいいかな、あはん?」
「それはだめだ」
となぜか日向が強硬に断る。
「一人許すと他の人間も抱きつくだろ。狛枝が苗木に抱きついて苗木が能力の影響で何かあったらどうする?」
「それでなんで日向お兄はいいの?」
自分に関係ない事でも、興味のある話には一応嘴を突っ込む西園寺だ。
「俺はっ…俺は、他意がないからいいんだ」
「なるほど。ま、日向お兄なら、女子に抱きついても他意なさそーだよね。なんか危なくないっていうか」
それは日向の女子に対する物慣れなさ故と言っていいだろう。
辛辣な西園寺も、日向に対しては懐いているので、これは別にきつい一言ではなかった。
訂正・きつい一言としての狙いで発された言葉ではなかった。
しかし、日向は傷ついた。
顔に斜線があからさまに引かれた。
また、小泉の「日寄子ちゃんそういう事言っちゃだめなんだよ!」という教育的指導がさらにショックに拍車をかけた。
「日向クン、しっかり!」
こういう時、日向にとって頼りになるのが何より苗木である。
「ボクは日向クン、ちゃんと危ないと思うよ!」
ちゃんと危ないというのが文脈からどうなのかというところはあるにしても。
「あっ、ありがとう苗木……」
日向がじっと苗木を見つめ、苗木もまた日向を見つめる。
全員、日向が傷ついた心を抱えたまま、どこかに走り出さなかった事にほっとした(小泉に口をふさがれている西園寺も)。
だからしばらくして日向が我にかえったように顔を赤らめてきょろきょろと挙動不審にあたりを見回しても、つっこむのをよした。
皆、これ以上の面倒は避けたかったからだ。
そしてそれからは和やかに誕生日パーティーが続いたのだった。
日向はかたくなにおせちを食べようとしなかったが、普通の料理の方は熱心に食べていた。
****
「ありがとうな、苗木。お前のおかげで今日はいい誕生日になったよ」
「よかった」
と苗木は、目を細めて笑う。少し得意そうでもある。
一人輪を離れて、未来機関に連絡を入れていたところだったが日向が来たので、携帯は懐にしまった。
「その……けど」
「けど?」
「それってさ、その、苗木の未来機関での仕事なんだよな? 俺らの精神を安定させるってのも仕事のうちなんだよな?」
「そうだけど、だからって、いやいややってるわけじゃないよ?」
「あ、うん、それは分かってるんだ」
目を丸くした苗木が必死に言ってくるのに日向は苦笑した。
「お前たちが言ってくれて、処分されそうになった俺らを助けてくれたんだしな。そーじゃなくてさ、その、俺たち、結構立ち直ってきてるだろ? 必要なくなったら、もう苗木には会えなくなるのかと思ってさ」
「そんな事ないよ! きっと!」
「推測入ってるのかよ」
やっぱりなと日向は苦笑した。
「お前の手伝いをしたいって考えもしたんだ。俺ならきっと挫折や絶望した奴らの気持ちだけはお前より分かるからな」
「それすごいよ日向クン!」
苗木が顔を輝かせるところまでは日向も想像していた。
「でもさ、問題もあるわけだ。俺がそっちの気持ちに引きずられるかもなっていう懸念さ。実際そうなりそうで怖いんだ」
「……日向クン……」
「だからさ働くにしても説得じゃなくて事務かな。俺をもう一回カムクラにできたら、きっとお前の役に立てるのにな」
「それもう一回言ったらグーで殴るよ」
真剣な顔で拳をかまえているが、チワワがすごんだのと同じくらいの凄味しかない。
殴られたいと日向は一瞬思って(いや俺はそーいうのとは違う)と否定した。
「分かってるよ。俺も希望ヶ峰も間違ってたって言うんだろ?」
しょせんカムクラは作られすぎて意志に乏しかった。
本当に超高校級の希望なら江ノ島とも戦えたはずだが、そんな事はなかった。
「だけど、未来機関は、俺をリセットして、カムクラにって考えてるかもしれないぜ」
「! 誰かに何か言われたの?」
「いや、そうじゃなくてさ。ちょっと考えたんだ。カムクラは結局二歳くらいまでしか生きられなかったんだなってさ」
「あれは日向クンがおかしくなってた頃で」
「かもな。けど、何ていうのかな、俺、ほらメンタルが弱めだろ」
これはかなり美化した言い方であり、はっきり言うと、貧弱な自覚がある。
「だからかな、時々カムクラが自分の弟みたいな気がするんだよな」
「それはきっと弱さじゃなくて日向クンが優しいからだよ」
正直に言えば苗木は日向の弱さは全て優しさに通じるのだろうなと思っている。
妙なこだわりやコンプレックスは好かれたいからで、要するに人間が好きなのだ。
他人との比較など、世界のどこかに放り出し、自分の趣味に突っ走る超高校級とは対極の存在だ。
「ボク、そういう日向クンって好きだよ」
「苗木……」
どきどきして日向は「違う! オレはそういうアレじゃない!」と絶叫した。
「だ、大丈夫、日向クン?」
今度こそ苗木は日向を心配したが、大丈夫だったようだ。
「ああ、平気だ」
ぜいぜいと息を切らしながら言う。
「なんか、最近、日向クン、ボクがいる方が大丈夫じゃなくなる確率が増えてる気がして心配なんだけど」
「そ、そんな事ない!!」
それで苗木が日向といるのを止めようと思ったら大変なので、日向は慌てて否定しておく。
「それはその……たぶん……なんていうか、苗木がこう……いや違う……」
また人のせいにしようとした。
周囲を拒もうとしたと気付いて、日向は頭を抱える。
しかし、自分に問題があると思えばカムクラになりたいしか浮かばない。
今、猛烈にカムクラになりたかった。今日の誕生日パーティーだってカムクラなら無表情にやり通すのではないか。
おせちだって無言でぱくつくだろうし、苗木と平気な顔でいられるのではないだろうか。
「俺は、苗木の事が好きなんだ」
「ボクも日向クンが好きだよ」
けろっとした顔で言われて、脱力する。
しかし、絶望にはならなかった。
「そういう意味だったとしても大丈夫だよ」
と苗木が心を読んだようにまっすぐな目で言うからだ。
「え、それってその、どういう、ええと……」
頭を抱えて悩み始めた日向の前で、苗木が「そこは頑張って自分で考えてほしいな」と言う。
やっぱりかわいいなと思った。そして、もう、カムクラになりたいとは思わなかった。
(だって俺カムクラになると記憶なくなるしな……)
今日の誕生日は覚えていたかった。
【完】