日苗・左右田が迷惑をかけられるギャグ(一応この話の日苗両想いなんで)



「左右田。そのな、相談がある」
「なんだよ、改まって。言えよ、水くせーな」

 にっと笑う左右田は、先に自分の弱みを日向に見せた自覚がある。

「その、恋愛相談なんだが」
「おっ、お前もついに誰か好きな奴できたのか? それならさらにこの俺に任せとけよ」
「ああ・・・・・・」

(ソニアさんに全く相手にされてないように見えるんだが・・・・・・いや、こいつのために言うのはよしておこう・・・・・・)という日向のためらいが言葉を濁させる。

「その、苗木、なんだ・・・・・・」

 沈黙。五秒の沈黙。その後、左右田は真剣な顔で聞いた。

「あのさ、俺、逃げていいか?」
「友達甲斐のない奴って思っていいか?」
「くっそ、お前ホモなの? 俺はやめろよ」
「安心しろ、俺はホモじゃないし、お前の事は友達以上に好きにはなれない」

 確かに少し左右田は安心する。
 被害が苗木にだけあると思えば他人事で「まあ、あれだよな。人それぞれって奴だよな」などと立ち直る。

「けど、お前、割とモテそーなのにな。なんでホモになんの?」

 世界中のホモの人々に謝らなければならないような台詞を吐く。
 このあたりからも分かるように比較的、左右田は天然であり、どこまでも性的にノーマルである。

「まあ、そういうのって生まれつきなのかな」
「だからホモじゃないって言ってるだろ。ただ苗木は・・・・・・かわいいんだ」

 くっと拳を固める日向に左右田は「まあ、男だけどきれーな顔しちゃいるよな」と同意する。

「いや、きれいより、かわいいの方だ」
「あ、そ、そうか。悪い・・・・・・」

 今、左右田の心に「ホモは扱い辛い」とインプットされた。
 違う。扱い辛いのは単に日向当人である。
 
「その、俺は苗木と、恋人になりたいんだ。どんな風にすればいいのか・・・・・・」
「ちょっ、おいディープになってきたな! その相談花村にしねえ?! あいつは男も女もカモンとか言ってただろ?! 俺じゃ役不足だよ!」

 もう投げ始めている左右田。なんだか目に涙が滲んでいる。

「だけど、お前が俺の友達だし、頼むよ相談できるのはお前しかいないんだ」
「・・・・・・・・・・・・」

 左右田は基本的に「助けられるのは自分だけ」とか言われるのに弱い。
 元々はインドアのオタクだから尚更である。

「分かったよ。どうすりゃいいんだよ、話を聞いてりゃいいのか?」

(石になれ・・・・・・石になるんだ、俺の心・・・・・・)

 と左右田は自分に念じた。

「いや、苗木との会話のシュミレーションの相手役になってほしい」
「誰か女子に頼めよ!!」

 左右田は今や本気で泣いた。

「何で女子なんだ?」
「女子の方が恋愛に強いだろ?!」
「俺たちの周りの女子を見てもそう思うか?」

 下ネタだけの終里、いい奴だが恋愛には興味なさそうな澪田、不器用委員長風の小泉、告白できていない辺古山、そもそも人間関係不得手そうな罪木、毒舌で男をバカにしている西園寺・・・・・・。

「いやほかは全滅でも、ソニアさんならきっと分かる・・・・・・かも」
「ほら・・・・・・お前の恋愛感情をもってしても、ソニアが恋愛指南できるとは思えないだろ?」
「だからって俺はもっと無理だぞ! 話したろ? 俺もお前と同じくらいモテないんだって!」
「モテないのと恋愛指南は違う! 映画監督じゃなくても映画レビューは面白かったり、マンガ描けなくても評論家とかいるだろ?」
「ま、まあ・・・・・・そりゃそうか」

 日向は酷いことを言っているのを、左右田は酷いことを言われているのをよく分かっていない。

「けど俺に恋愛指南の才能があるのか?」
「元はそんな髪の毛じゃなかったらしいし、中身がほかの奴よりかなり常識的だろ、お前」
「うーん、かもな。比較対照があれだからかもだけどよ」
「だから、やってくれ・・・・・・いいか、いくぞ」
「お、おう・・・・・・」

 きっと日向は目つきを改める。

「苗木! つきあってくれ!」
「『ごめん、断るよ日向クン』」
 
 沈黙した後、日向は目をつぶって呻いた。

「・・・・・・何でそうなるんだよ! 左右田!」
「お前こそ、何でそうならないと思うんだよ!」
「話が続かないだろ!」
「リアルにしたんだよ! まず断られたところからシュミレーションしないと、お前が後で傷つくだろ!」
「断られたら・・・・・・もう苗木の側にいられないじゃないか・・・・・・一応、そこはクリアしてるんだ!」
「えっ、マジで?!」

 左右田は驚いた。

「なんか、お前の妄想とか深読みじゃなくて? いやお前がモテないって言ってるわけじゃなくて特殊な状況だしよ!」
「いや、ちゃんと苗木の目を見て、俺とつきあってほしいって言ったんだ」
「それで向こうは承知したのか? お前と仕事をつきあうとか、友人づきあいとか、そっちの意味だと思ってんじゃないのか?」
「俺もそう思えてきてるんだ・・・・・・」

 頭を抱える日向。
 日向が言うには告白をしてからも苗木は何も変わらないらしい。
 こんにちは日向クンと一緒にいて笑って会話して、未来機関の仕事について話してくれて可愛い(最後のはどうでもいい日向の説明)。

「もっとこう恋人同士みたいにしたいんだ・・・・・・」
「いや・・・・・・それはさ、うん・・・・・・その、お前の方からアクション起こすべきなんじゃねえの?」

 左右田は今、限りなく無我の境地に近づいていた。
 ヘテロの男がホモの友人に恋愛指南する時には、心を殺す必要がある。
 あとは想像力。自分がソニアに告白成功し、しかし、二人の間は何も変わらないと考えてみた。やはりその場合、自分がソニアの手を握るとかキスをするとか何かするべきだろう。

「向こうだって、お前の出方をうかがってんじゃねえの?」
「そうか、そうかもしれない・・・・・・左右田、お前やっぱりすごいな」
「いやあ・・・・・・そうでもねえだろ」

 少しいい気持ちになってきた左右田。
 しかし、日向の発言はふるっていた。

「じゃ、またシュミレーションさせてくれ!」
「何でそうなるんだよ!」
「俺が苗木とのつきあいで失敗してもいいのか?! 本当にいいのか?! 友達だろ!」
「いや・・・・・・そうじゃねえけどよ・・・・・・」

 今友情の意味を果てしなく心に問い正す時。

「苗木、その・・・・・・好きだ、き、キスさせてくれ・・・・・・」
「『なんか怖い』」
「・・・・・・だから、なんで断るところから始めるんだよ!」
「リアルに答えてんだよ!! そう言われても返す台詞を用意しておかないと、そこで関係がとだえるだろ!」
「くっ・・・・・・論破された・・・・・・」

 日向がその場に膝をつく。

「・・・・・・怖がらせて悪かった、苗木。その、手を握ってもいいか?」
「ちょっと待った。何でお前、手を伸ばしてきてんだ?」
「許可取ってから握った方がいいか?」
「そうじゃなくて、お前、俺の手を握るつもりなのか?」
「握手くらい、前にもしたろ?」

 先日、左右田が新しいマシンの開発に成功した時「やったぜ!」「すごいな!」と握手をした。

「あれとは違うだろー!! なんかキモいんだよ!」
「別に俺はお前に変な気持ちとかまるでないから、安心しろ」
「それは承知の上で嫌なんだよー!!」
「・・・・・・けど、もし握り方が変で苗木に拒否されたら・・・・・・」

 頭を抱える日向。

「・・・・・・分かった、しょうがねえ、ちょっとだけだぞ」
「あ、ああ・・・・・・ありがとう」

 日向の手が、がたがた痙攣しているのを見た左右田は「お前・・・・・・それ、なんとかしろよ」と忠告した。

「なんとかって・・・・・・緊張するだろ」
「いや俺苗木じゃねえから! 今緊張してもしょうがねえだろ! どんだけ想像力たくましいんだよ! 怖えよ! 苗木じゃねえのに怖えよ! って手の時点でこれとか、俺でもねえぞ?」
「まあな。頭の中であまりにも違いすぎるお前を苗木に置き換えるのに今、俺は力のすべてを使ってるからな」
「ほめてねえ! 何でちょっと得意そうなんだよ! ってか、そんな事より、どうしたら苗木とうまくいくかなーとか、苗木今何考えてるかなーとか、図々しくねえかなー、とか、色々もっと考えるべき事あるだろ?」

 実際、左右田は忠告を自分の事にはまるで生かせていない。

「お前だってソニアに対して、図々しいだろ!」
「俺は罵られてもご褒美だからいいんだよ!」

 一発論破。
 がくっと日向はその場に膝をついた。

「そうだったな・・・・・・」
「そうだ。お前は苗木に嫌われたら死ぬだろ」
「そうだな・・・・・・だけど苗木が何考えてるかとか、絶対分からない。お前だって天使が考えてる事なんて想像できないだろ? でもきっと綺麗な物と甘い砂糖菓子みたいなので、できているんだ。いや、そうであって欲しい」
「きれいな目で言い切りやがったな・・・・・・」

 バカにできない気迫がそこにある。

「苗木、俺の事、好きか?」
「『うん、大好き』」
「・・・・・・お、俺もだ、苗木ー!」
「ギャー!!!」

 左右田は急いで走って逃げた。

「ちょっと待てよ、何で展開が鬼ごっこになるんだ」
「お前がいきなり、がっちりハグしてこようとするからだろ! だいたい、お前、さっきまでデートしてた設定で、ここは公園だろ! そこで抱きつくとか周囲考えろ周囲!」
「なるほどな・・・・・・じゃあ、まず人気のないところに行こう、苗木、が先か・・・・・・」

 ぐっと目を瞑り、痛恨といった表情になる日向。

「だから何でそこストレートなんだよ!」
「いや、飾らない俺を知って貰おうかと思って・・・・・・それに人気のないところに行く、っていえば、何でこんな人気のない道に、って質問が来ないだろうし、俺の気持ちも何となく察して貰えるかなって・・・・・・」
「楽をしようとすんなよ! なんかすげー事されるつもりになって逃げるだろ!」
「だったら、大した事はしないから人気のない方向に行こう、が正解か?」
「いや、だめだろ!! そうじゃなくてだ! その、もっとこう流れでよ・・・・・・苗木をほめたらどうだ、かわいいとか何とか」
「お前苗木のかわいさが分かるのか・・・・・・お前・・・・・・まさか」
「俺は!! ソニアさん一筋だ!!!」

 思わず区切って叫ばねばならないほど主張したい。

「かわいい・・・・・・苗木のかわいさは天使だ・・・・・・こう清純で・・・・・・絶対苗木は、処女だ・・・・・・」
「まず女じゃねえから! 清純さから離れろ! もう嫌な予感しかしねえから! 天使と処女はやめろ!!」

 いつもソニアにつっこみを入れられてはいるが、それは自覚に基づいているのであって、こんなにも天然な変態が自分の親友だなんて、左右田ですら、ちょっと嫌だ。

「わかった・・・・・・じゃあ、苗木のかわいさ・・・・・・そうだなやっぱり顔がきれいだし、こう、小さい・・・・・・何より小さいだろ。あの小ささが、こう保護したいような気持ちを」
「いや待てよ苗木は小さい事、確か気にしてたぞ」
「お前、細かいな・・・・・・だったらどう誉めればいいんだ・・・・・・」
「なんか色々あるだろ! 俺がソニアさんを誉めるとしたら・・・・・・ソニアさんは気高く美しく、あの金色の髪ときたら、まるで金でできた糸みたいだしよ、目とかもこう光り輝いてて宝石みたいだしよ」
「お前、キモい」
「お前に言われたくねえ!!」
「・・・・・・・・・・・・」

 ちなみに当の苗木は、椰子の木の陰でひどく遠い目をしている。
 この一部始終を見てしまっていたからだ。
 ごく初期に遭遇し、見ているのは失礼だから去ろうと思っていたのだが、女子の風呂場を覗く時には発揮できた自制心が発揮できなかったのだ。

(どうしよう・・・・・・次に会う時がすごく心配だ・・・・・・いや前向きに・・・・・・でもボクが何か自分から仕掛けたら日向クンはショックを受けそうだし・・・・・・)

 もうやらないか、でも何でもいいよという気持ちになっている苗木なのだった。

【完】



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