微妙に十苗SS(ロンパ1最中)
その日。
「モノクマケーキー! どう? 可愛いでしょ? 愛しいでしょ? 食べたくなってきちゃうでしょ? ハァハァハァ。いいんだよ、食べても。それでボクの絶望が伝染しちゃったりね。うぷぷぷぷ。それが怖くない人は食べるといいよ・・・・・・」
食堂に、嫌な煽り文句を伴ってケーキが出現した。
ちゃんと人数分あったが、モノクマの性格を知っている大勢にとって、それは可愛くも何ともないものだ。邪悪な生き物の形をしているケーキなんて食べたいわけがない。
「馬鹿な。誰が食うか」
「びゃ、白夜様がそう言うなら、私も食べないわっ・・・・・・」
「俺だって食わないべ」
「わ、私だって食べないよ? 甘い物は好きだけどさすがに」
葉隠に「こいつなら食べるんじゃないか」風の目を向けられた甘味好きの朝比奈はぷるぷると首を横に振る。
苗木の目にも、黒と白のケーキが禍々しく映った。
「食べた途端、中に毒が入ってるとかいうんじゃないでしょうね」
「やだなあ・・・・・・ボクがそんな酷い事すると思う?」
霧切の追求に、モノクマが悲しそうな表情をする。
「そんな事したら、コロシアイの精神に反するじゃないかー! これはただ単に趣味でーーす!!」
かと思えば「ひゃっほう」のかけ声と共に片手を上に上げた。
「でもね、ボクだけじゃ、アピールしないかなって思って、作ってみました・・・・・・苗木君ケーキ!」
「ええ、ボク? 何でボク?」
「おっ、いいね、いいね、その反応。うぷぷぷぷぷ。この中で一番その手のリアクションが貰えそうな人にしてみました」
「ははは、苗木っち。動揺しやすいって言われてるべ」
楽しげに笑った葉隠に、モノクマは「まあ、葉隠君だと可愛くないしね」と言葉のナイフを刺す。
「ど、どういう意味だべ!」
「その言葉通りの意味ですが? リアクションは合格なんだけどねえ。やっぱり可愛い方が、受けがいいしねえ。受だけに? うぷぷぷぷぷ」
「え、葉隠、ここで可愛いって言われたかったの?」
「い、いや、それはそれで嬉しくない気がすんべ」
朝比奈のツッコミに、葉隠も首をひねる。
「うん、実際、ボク、少しも嬉しくないしね・・・・・・」
ただでさえ、背が低いし童顔だし、男子として意識されにくい自分を苗木も自覚している。
可愛いなんて高校生男子が一番言われたくない台詞ではないか。
それでも霧切みたいな美少女に評価されたら、少しは複雑な喜びもあるかもしれないが、モノクマに、おまけにモノクマと並んでケーキの題材に選ばれるなんて全く喜べない。
「じゃーん、こちらが、その苗木君ケーキでーす!!」
「うわああ!」
悲鳴をあげたのは、かなり精巧に作られていたせいだ。
小さい丸いホールケーキは直径15センチほど。苗木の顔が平らな表面に描かれている。
「モノクマの名誉にかけて毒など入っておりません。しかも、立体のモノクマケーキより二倍の予算と手間がかかっているのです・・・・・・ふう大変だった」
「大変な嫌がらせだよ!」
「いいえ。ここまでするのだから、モノクマは苗木君を気に入っているのよ。あるいはモノクマの中の黒幕が、というべきかしら・・・・・・」
「霧切さんその推理いらない! むしろ知りたくなかった!」
「とにかく食べる気はない。そんな話なら、俺は部屋に帰らせて貰う」
「わ、私も白夜様と一緒に」
「ああ、もう団体行動を乱す人達だよねえ」
ちっちっち、とモノクマは舌打ちする。
「だめだめ。これを食べない人は撃ち殺します。ただしボクは優しいクマなので、残すのはオーケーにします。頑張って一口でも食べましょう」
「何だと?」
「びゃ、白夜様は殺させないわよ。私が盾になってもっ・・・・・・」
「そうだな。よし腐川、盾になれ」
「ええっ?!」
あっさり言われた腐川が両手をあげて顔を引きつらせる。毎度、ひどい扱いを受けているのに十神の反応が予測できないのが腐川だった。
彼らのやり取りを見て、面白そうにモノクマは笑う。
「でもさ、十神財閥の御曹司ともあろう人が、ケーキを食べたくないなんて、つまんない意地で駒を盾にするなんて、不名誉だよねえ」
「ぐっ・・・・・・!」
「それに、腐川さんは食べたくなくてもジェノサイダー翔さんはまた違うかもしれませんよ? はい、こちょこちょっと」
「なっ、何をするのよっ、へくっ、へぐしょんっ!!」
鼻をこよりでくすぐられて、超高校級の作家・腐川の人格が、超高校級の殺人鬼・ジェノサイダー翔に変化する。
「あっららのらー? なになにぃ? これってば、まこちんのケーキ? うっは。何これ! まさしく痛ケーキって奴? 誰かまこちんをラブな奴でもいて作ったのかしらー? ゲラゲラゲラ!!」
「作ったのはボクだよ」
「モノクマ×まこちん! キタコレ! 獣姦? ってモノクマつっこむ物ついてねーじゃん! 萌えて損した! って、後からつけて貰えば済む事だって?!」
繊細な恋愛小説を書く腐川がボーイズラブ嫌いなのに対して、ジェノサイダーはバリバリの腐女子なのである。
側にいる十神は顔をしかめて「やめろ。おぞましい」と言うが、お構いなしである。
「え、何このケーキ1人、1つなわけ? ゴージャス! ってか、まこちんケーキか。まあ、殺すには萌えが今1つだけど、食べるくらいなら、そこそこ、いけてんじゃね? ゲラゲラゲラ!」
ざくざくざく、とジェノサイダー翔はケーキを切り刻んで口に運んでいく。ケーキ上の苗木の顔もぐちゃぐちゃになる。
「美味しいー! まこちんも顔は悪くねーしな! 萌える!」
「お楽しみ頂けて何よりです」
ジェノサイダー翔の賛辞に嬉しそうにモノクマはお辞儀する。
食べられているケーキの上に象られた苗木としては複雑な気持ちだ。
「う、うわあ・・・・・・」と呻く。
近くで十神も青い顔をしているのに気づいて、ほっとした。
(だよね。やっぱり気持ち悪いよね)
「あっれー? 十神君は食べないんですか」
「・・・・・・食べればいいんだろう。一口だぞ」
命を握っているモノクマに対しても、上から目線の口調なのは、さすがに御曹司である。
心を決めたように十神はナイフでケーキを切って食べる。
「ふむ、味は悪くないが・・・・・・」
「こらこら十神君。その食べ方は何ですか」
しかし、ここでモノクマからツッコミが入った。
「何だ。ちゃんと食べているだろう」
「うん、ちゃんと苗木君の顔の部分をきれいによけて縁だけ食べるなんて驚いたよね。何それ器用すぎ」
「あー、もしかして、十神って、ひよこも顔を残して食べるタイプ?」
朝比奈が面白そうに聞く。
「なっ、馬鹿にするな・・・・・・お前はどうなんだ」
「え、私は、とりあえず四つに切ってちょこちょこ食べる人だけど」
と言う、朝比奈は最初は「何これー」なんて言っていたくせに、ジェノサイダー翔が「美味しい」と言った途端、苗木ケーキを四つに切り分けていた。現金な甘いもの好き女子である。
「朝比奈さん・・・・・・」
「苗木、これ美味しいよ、食べてみなって。自分の顔がついてる事なんて、そんな気にならなくなるよ」
「そうだべ。ケーキなんて久しぶりだべ? 毒が入ってないってんなら、まあいいべ? もっと言うなら、小さい頃からホールでケーキ食うっての贅沢で夢だったべ」
もっと現金な葉隠は食べる側から切る派のようだった。半分、苗木の顔が食べられている。
(み、みんな気にしないんだなあ・・・・・・)
正直、苗木としては食欲が全く湧かないのだが、モノクマの脅しはこれまでずっと本気なので、食べなくてはならないようだ。おそるおそるフォークを構える。
「お、お前ら・・・・・・そんな虐殺のような事がよくできるな」
「あー、十神、やっぱり顔がついてるケーキが可哀相で苦手な人だー」
「白夜様ってところどころ、へたれなんだよなー。ま、そこはそこで萌えんだけどさ! ゲラゲラゲラ!」
朝比奈がいたずらっぽい顔になり(彼女はたとえどんな可愛い猫の形をしていようが、美味しければ食べる派である)、ジェノサイダー翔が哄笑する。
これでプライドの高い十神は柳眉を上げ、言わなくてもいいような台詞を口にした。
「そうじゃない。俺はただ、苗木の顔がついているのが・・・・・・」
「えー、白夜様、キタコレ!! それってボーイズ」
それからの十神の行動は迅速だった。
ジェノサイダー翔をはがいじめにすると鼻にこよりをつっこむ。
「へっ、へっくしょい!! え・・・・・・、びゃ、白夜様が私を抱きしめっ、ええっ!」
正気付いて赤くなった腐川はその場にたたき落とした。ここまでで、5秒。ぜえぜえと荒い息をしている。
「まあ、確かに知り合いの顔がついていると食べにくいわよね」
フォローを入れてくれた霧切に「! そうだ、それだけの話だ」と急いで同意しようとする、が、十神は固まった。同じ方向を向いた苗木も、同じように固まった。
霧切がモノクマケーキをぐちゃぐちゃとフォークの先で潰しながら食べていたからだ。
「き、霧切さん?」
「憎らしい相手の顔がついているケーキなら、ぐちゃぐちゃにして食べるのも楽しいんじゃないかと思ったまでよ」
「なるほどな・・・・・・」
納得したように、十神も頷く。
「ねえ、十神、もう食べないなら苗木ケーキ、私が食べていい?」
「好きにしろ」
「ボクも朝比奈さんに食べてもらっちゃだめかな」
「だめです。一口でも食べましょう」
がんとしたモノクマの勧めに、仕方なく苗木も自分のケーキを一口だけ食べた。
「甘い物って嫌いじゃないんだけどさ、ボク、そんなに量は入らないんだよね」
「何だ、可愛い苗木君もそういうところは、普通の男子なんですね。うぷぷ。ちょっと、がっかり〜」
モノクマが勝手な事を言う。
「それに、人や動物の顔がついたものってやっぱり、ちょっと・・・・・・十神君だって食べてないし・・・・・・」
と言いかけて、苗木は十神が霧切と同じようにモノクマケーキを虐殺しているのを見て固まる。
「どうした苗木。これは悪くはない味だぞ」
「・・・・・・十神君」
「私も苗木君のケーキは食べにくいわね」
と霧切がすまして言う。苗木が見れば、霧切も十神と同じで一口食べただけでケーキが残っている。朝比奈が、貪欲な視線をケーキに投げている。
なぜか十神は霧切を睨んだ。
「どういう意味だ」
「自覚があるにせよないにせよ、十神君と同じ意味でよ」
苗木はさっぱり訳が分からなかったが、腐川と朝比奈と葉隠も分かっていないようなのでよしとしておいた。
「いやあ、しかし、こんなにボクのケーキがご好評頂けると嬉しいですなあ。ゆるキャラみたいに、この学園をボクのグッズで埋め尽くしてもいいかも。うぷぷぷぷ」
(それはかなりの心理的虐待だな)と苗木は思った。早くここから出なくては・・・・・・。
【完】
その日。
「モノクマケーキー! どう? 可愛いでしょ? 愛しいでしょ? 食べたくなってきちゃうでしょ? ハァハァハァ。いいんだよ、食べても。それでボクの絶望が伝染しちゃったりね。うぷぷぷぷ。それが怖くない人は食べるといいよ・・・・・・」
食堂に、嫌な煽り文句を伴ってケーキが出現した。
ちゃんと人数分あったが、モノクマの性格を知っている大勢にとって、それは可愛くも何ともないものだ。邪悪な生き物の形をしているケーキなんて食べたいわけがない。
「馬鹿な。誰が食うか」
「びゃ、白夜様がそう言うなら、私も食べないわっ・・・・・・」
「俺だって食わないべ」
「わ、私だって食べないよ? 甘い物は好きだけどさすがに」
葉隠に「こいつなら食べるんじゃないか」風の目を向けられた甘味好きの朝比奈はぷるぷると首を横に振る。
苗木の目にも、黒と白のケーキが禍々しく映った。
「食べた途端、中に毒が入ってるとかいうんじゃないでしょうね」
「やだなあ・・・・・・ボクがそんな酷い事すると思う?」
霧切の追求に、モノクマが悲しそうな表情をする。
「そんな事したら、コロシアイの精神に反するじゃないかー! これはただ単に趣味でーーす!!」
かと思えば「ひゃっほう」のかけ声と共に片手を上に上げた。
「でもね、ボクだけじゃ、アピールしないかなって思って、作ってみました・・・・・・苗木君ケーキ!」
「ええ、ボク? 何でボク?」
「おっ、いいね、いいね、その反応。うぷぷぷぷぷ。この中で一番その手のリアクションが貰えそうな人にしてみました」
「ははは、苗木っち。動揺しやすいって言われてるべ」
楽しげに笑った葉隠に、モノクマは「まあ、葉隠君だと可愛くないしね」と言葉のナイフを刺す。
「ど、どういう意味だべ!」
「その言葉通りの意味ですが? リアクションは合格なんだけどねえ。やっぱり可愛い方が、受けがいいしねえ。受だけに? うぷぷぷぷぷ」
「え、葉隠、ここで可愛いって言われたかったの?」
「い、いや、それはそれで嬉しくない気がすんべ」
朝比奈のツッコミに、葉隠も首をひねる。
「うん、実際、ボク、少しも嬉しくないしね・・・・・・」
ただでさえ、背が低いし童顔だし、男子として意識されにくい自分を苗木も自覚している。
可愛いなんて高校生男子が一番言われたくない台詞ではないか。
それでも霧切みたいな美少女に評価されたら、少しは複雑な喜びもあるかもしれないが、モノクマに、おまけにモノクマと並んでケーキの題材に選ばれるなんて全く喜べない。
「じゃーん、こちらが、その苗木君ケーキでーす!!」
「うわああ!」
悲鳴をあげたのは、かなり精巧に作られていたせいだ。
小さい丸いホールケーキは直径15センチほど。苗木の顔が平らな表面に描かれている。
「モノクマの名誉にかけて毒など入っておりません。しかも、立体のモノクマケーキより二倍の予算と手間がかかっているのです・・・・・・ふう大変だった」
「大変な嫌がらせだよ!」
「いいえ。ここまでするのだから、モノクマは苗木君を気に入っているのよ。あるいはモノクマの中の黒幕が、というべきかしら・・・・・・」
「霧切さんその推理いらない! むしろ知りたくなかった!」
「とにかく食べる気はない。そんな話なら、俺は部屋に帰らせて貰う」
「わ、私も白夜様と一緒に」
「ああ、もう団体行動を乱す人達だよねえ」
ちっちっち、とモノクマは舌打ちする。
「だめだめ。これを食べない人は撃ち殺します。ただしボクは優しいクマなので、残すのはオーケーにします。頑張って一口でも食べましょう」
「何だと?」
「びゃ、白夜様は殺させないわよ。私が盾になってもっ・・・・・・」
「そうだな。よし腐川、盾になれ」
「ええっ?!」
あっさり言われた腐川が両手をあげて顔を引きつらせる。毎度、ひどい扱いを受けているのに十神の反応が予測できないのが腐川だった。
彼らのやり取りを見て、面白そうにモノクマは笑う。
「でもさ、十神財閥の御曹司ともあろう人が、ケーキを食べたくないなんて、つまんない意地で駒を盾にするなんて、不名誉だよねえ」
「ぐっ・・・・・・!」
「それに、腐川さんは食べたくなくてもジェノサイダー翔さんはまた違うかもしれませんよ? はい、こちょこちょっと」
「なっ、何をするのよっ、へくっ、へぐしょんっ!!」
鼻をこよりでくすぐられて、超高校級の作家・腐川の人格が、超高校級の殺人鬼・ジェノサイダー翔に変化する。
「あっららのらー? なになにぃ? これってば、まこちんのケーキ? うっは。何これ! まさしく痛ケーキって奴? 誰かまこちんをラブな奴でもいて作ったのかしらー? ゲラゲラゲラ!!」
「作ったのはボクだよ」
「モノクマ×まこちん! キタコレ! 獣姦? ってモノクマつっこむ物ついてねーじゃん! 萌えて損した! って、後からつけて貰えば済む事だって?!」
繊細な恋愛小説を書く腐川がボーイズラブ嫌いなのに対して、ジェノサイダーはバリバリの腐女子なのである。
側にいる十神は顔をしかめて「やめろ。おぞましい」と言うが、お構いなしである。
「え、何このケーキ1人、1つなわけ? ゴージャス! ってか、まこちんケーキか。まあ、殺すには萌えが今1つだけど、食べるくらいなら、そこそこ、いけてんじゃね? ゲラゲラゲラ!」
ざくざくざく、とジェノサイダー翔はケーキを切り刻んで口に運んでいく。ケーキ上の苗木の顔もぐちゃぐちゃになる。
「美味しいー! まこちんも顔は悪くねーしな! 萌える!」
「お楽しみ頂けて何よりです」
ジェノサイダー翔の賛辞に嬉しそうにモノクマはお辞儀する。
食べられているケーキの上に象られた苗木としては複雑な気持ちだ。
「う、うわあ・・・・・・」と呻く。
近くで十神も青い顔をしているのに気づいて、ほっとした。
(だよね。やっぱり気持ち悪いよね)
「あっれー? 十神君は食べないんですか」
「・・・・・・食べればいいんだろう。一口だぞ」
命を握っているモノクマに対しても、上から目線の口調なのは、さすがに御曹司である。
心を決めたように十神はナイフでケーキを切って食べる。
「ふむ、味は悪くないが・・・・・・」
「こらこら十神君。その食べ方は何ですか」
しかし、ここでモノクマからツッコミが入った。
「何だ。ちゃんと食べているだろう」
「うん、ちゃんと苗木君の顔の部分をきれいによけて縁だけ食べるなんて驚いたよね。何それ器用すぎ」
「あー、もしかして、十神って、ひよこも顔を残して食べるタイプ?」
朝比奈が面白そうに聞く。
「なっ、馬鹿にするな・・・・・・お前はどうなんだ」
「え、私は、とりあえず四つに切ってちょこちょこ食べる人だけど」
と言う、朝比奈は最初は「何これー」なんて言っていたくせに、ジェノサイダー翔が「美味しい」と言った途端、苗木ケーキを四つに切り分けていた。現金な甘いもの好き女子である。
「朝比奈さん・・・・・・」
「苗木、これ美味しいよ、食べてみなって。自分の顔がついてる事なんて、そんな気にならなくなるよ」
「そうだべ。ケーキなんて久しぶりだべ? 毒が入ってないってんなら、まあいいべ? もっと言うなら、小さい頃からホールでケーキ食うっての贅沢で夢だったべ」
もっと現金な葉隠は食べる側から切る派のようだった。半分、苗木の顔が食べられている。
(み、みんな気にしないんだなあ・・・・・・)
正直、苗木としては食欲が全く湧かないのだが、モノクマの脅しはこれまでずっと本気なので、食べなくてはならないようだ。おそるおそるフォークを構える。
「お、お前ら・・・・・・そんな虐殺のような事がよくできるな」
「あー、十神、やっぱり顔がついてるケーキが可哀相で苦手な人だー」
「白夜様ってところどころ、へたれなんだよなー。ま、そこはそこで萌えんだけどさ! ゲラゲラゲラ!」
朝比奈がいたずらっぽい顔になり(彼女はたとえどんな可愛い猫の形をしていようが、美味しければ食べる派である)、ジェノサイダー翔が哄笑する。
これでプライドの高い十神は柳眉を上げ、言わなくてもいいような台詞を口にした。
「そうじゃない。俺はただ、苗木の顔がついているのが・・・・・・」
「えー、白夜様、キタコレ!! それってボーイズ」
それからの十神の行動は迅速だった。
ジェノサイダー翔をはがいじめにすると鼻にこよりをつっこむ。
「へっ、へっくしょい!! え・・・・・・、びゃ、白夜様が私を抱きしめっ、ええっ!」
正気付いて赤くなった腐川はその場にたたき落とした。ここまでで、5秒。ぜえぜえと荒い息をしている。
「まあ、確かに知り合いの顔がついていると食べにくいわよね」
フォローを入れてくれた霧切に「! そうだ、それだけの話だ」と急いで同意しようとする、が、十神は固まった。同じ方向を向いた苗木も、同じように固まった。
霧切がモノクマケーキをぐちゃぐちゃとフォークの先で潰しながら食べていたからだ。
「き、霧切さん?」
「憎らしい相手の顔がついているケーキなら、ぐちゃぐちゃにして食べるのも楽しいんじゃないかと思ったまでよ」
「なるほどな・・・・・・」
納得したように、十神も頷く。
「ねえ、十神、もう食べないなら苗木ケーキ、私が食べていい?」
「好きにしろ」
「ボクも朝比奈さんに食べてもらっちゃだめかな」
「だめです。一口でも食べましょう」
がんとしたモノクマの勧めに、仕方なく苗木も自分のケーキを一口だけ食べた。
「甘い物って嫌いじゃないんだけどさ、ボク、そんなに量は入らないんだよね」
「何だ、可愛い苗木君もそういうところは、普通の男子なんですね。うぷぷ。ちょっと、がっかり〜」
モノクマが勝手な事を言う。
「それに、人や動物の顔がついたものってやっぱり、ちょっと・・・・・・十神君だって食べてないし・・・・・・」
と言いかけて、苗木は十神が霧切と同じようにモノクマケーキを虐殺しているのを見て固まる。
「どうした苗木。これは悪くはない味だぞ」
「・・・・・・十神君」
「私も苗木君のケーキは食べにくいわね」
と霧切がすまして言う。苗木が見れば、霧切も十神と同じで一口食べただけでケーキが残っている。朝比奈が、貪欲な視線をケーキに投げている。
なぜか十神は霧切を睨んだ。
「どういう意味だ」
「自覚があるにせよないにせよ、十神君と同じ意味でよ」
苗木はさっぱり訳が分からなかったが、腐川と朝比奈と葉隠も分かっていないようなのでよしとしておいた。
「いやあ、しかし、こんなにボクのケーキがご好評頂けると嬉しいですなあ。ゆるキャラみたいに、この学園をボクのグッズで埋め尽くしてもいいかも。うぷぷぷぷ」
(それはかなりの心理的虐待だな)と苗木は思った。早くここから出なくては・・・・・・。
【完】