た んぺん堂(骸ツナ、ツナ受中心サイト・ムクロウや箱獣が好き)


11代目物語


■ 色々捏造



 オレの名前は、沢田。
 公式には「11代目」と呼ばれている。
 それは、オレが生まれてすぐに出奔してしまった父さんが10代目だったからだ。
 父さんの事は恨んではいない。
 うちには母さんも2人いるから、それで充分父さんの代役はできているんじゃないかと思う。
 たいがいの世の父さんというものは、お金を運ぶだけらしいし、色んなものから逃亡したらしい父さんがオレの育児にだけ立ち向かうってのが想像できないからだ。
 どっちの母さんがオレを産んだのか、それは2人とも良く分からないらしい。
 2人とも同時期に子供を産んだのだが、片方は死産だった。自分の産んだ子供が死んだと思うと悲しいから追求しない事にしたという。
 いいのか、そんな曖昧で。母さん達も色んなものから逃亡してるんじゃないのか。

「沢田綱吉は、基本的にプリーモの血を継いでいるのではないでしょうか」

 と小さい頃から全く容姿の変わらない骸は、遠い目をして言う。
 初代に当たる彼も逃亡したらしい。
 骸おじさん、と最初呼んだらものすごく怒られた記憶がある。ちょっとトラウマだ。
 骸と呼び捨てにしろといって聞かない。さんづけをされるのも嫌なようだ。何だろう。
 でも、全員、おじさんと言っていい年齢だと思う。
 ただそう呼ぶのが人を傷つけることもオレは知っている。

「てめえ、11代目の前で変な事言うなって言っただろうが。10代目はきっと遠くからオレたちを見守ってくれてるんスよ! 11代目を捨てたわけでは決して決してありません!!」

 獄寺さんはいつでもこんな風にきっぱり物を言う。
 獄寺さんも名前には色々こだわりがあるらしく、できれば獄寺君と呼んでくれないかと言われた。
 さすがに断った(気持ち悪いからだけどそれは言わなかった)。
 基本的にオレにはすごく甘い。何でも買ってくれる。
 それはどうかと思うと、ハル母さんといつでも、ものすごい舌戦を繰り広げている。
 だから、オレはあまり物をねだらなくなった。
 基本的にオレには友達が少ないし、流行のゲームを持っていたって、仕方ない。
 彼女がいないから、服も母さん達が買う分で足りてるし、しゃれっ気もない。
 部活にも入っていないから、そのほかに必要なものもあまりない。

「ツナは極秘任務についてんじゃねえかな。雲雀なら知ってるかもしれねえけど」

 山本さんは顔に傷があるし、日本的な風貌なので、一番やくざっぽい。
 にこにこ笑っていると、かっこいいんだけど、そうじゃないとちょっと怖い。

「そう思って雲雀の周囲には僕の手下と第二の体を張り巡らしてあります! それで見つからないんですよ?」
「ってオレに怒鳴られてもなあ」
「雲雀とはまた決着をつけなくてはいけませんね」

 雲雀さん。父さんの部下?なのかな?
 とにかく強いらしい雲雀さん。
 オレはあまり見た事がない。群れるのが嫌いらしい。
 何回か連れて行かれたパーティーで黄色い鳥にたかられている、背の高い人影を見たくらい?
 あれが雲雀さんなんだ、と思った。
 雲雀さんの視線を感じたような気がしたけど気のせいかもしれない。

「ええと、皆さん、落ち着いて下さい、落ち着いて下さいよ〜」
 
 この腰の低い人はランボさんだ。
 一番オレに年が近いんだけど、それでも相当上だ。
 それに、なんだかオレよりもよっぽど立場が弱いらしい。
 戦う時はそれなりに強いらしいけど、いつでもこんな風にびくびくしている。

「極限、沢田の事は沢田に任すしかなかろう」

 と、まとめたのが了平おじさんだ。了平おじさんだけは「まあ、年齢からいって、おじさんだろう」と、あまり呼び方に拘らない。
 そこらへんが、かっこいいと思う。
 皆のまとめ役は獄寺さんという事になっているけれど、実際、了平おじさんの方が適任な気がする。
 今もそんな風にまとめた。

「いつか帰ってくるだろうしな」
「いつかっていつですか! 何で僕に連絡がないんです! いつもそうだ! 未来編の時もそうでした!」
「10代目には10代目のお考えがあるんだよ!」
「だったらそれを説明してから行ってくれればいいんですよ! 僕だってそれならつきあう予定はあった!」
「ははは、それなら、オレらの方がつきあいが長いんだし、選ばれんのはオレらだろ?」

 きらっと目を光らせて、山本さんが骸を怒る。
 いや、なんか怒る、としか言いようのない感じでちょっと怖い。

「山本武。君とも決着をつけなければいけないようですね」

 ぎらんと骸の目も光る。
 オレはこんな時の解決方法を知っているので、骸の掌にチョコの新作菓子を押し込み、山本さんには「山本さん、体育の授業でわかんないとこがあんだけど」と言った。
 それで危機は回避できた。

「11代目、それならオレが教えます!」
「お前、理論だけじゃ、子供には伝わらねえっつったろ? いいか、こう手をぐーってやって、かきーんってやったら」
「お前の方がわかんねえよ!!」

 骸は不満そうな顔で、しかし、チョコをもぐもぐ食べている。
 このチョコを食べ終わったら文句を言いだすんだろうけど、そのころにはタイミングを逃しているのがいつもだ。

「すごいですねえ……ボンゴレ11代目。事態の収拾能力はもしかしたら10代目より上かもしれないです」
「さすがだぞ、沢田!」

 ランボさんと了平おじさんが誉めてくれる。
 このマイペースな人たちが、絶え間なくオレの周囲を回遊するおかげで、オレは友達がいない、といったら、人のせいにしすぎという事になるだろう。
 オレは基本的に覇気がないタイプ。
 ラノベの主人公にいそうな、女子が勝手に振り向いてくれないかなあと思うタイプ。
 勉強もダメ。
 運動もダメ。
 何もかもダメ。そしてやる気もない。やるつもりもない。
 だから、周りのこの変な大人たちに、11代目にされたくないなあと思っているけれど、それを断るだけの気力もない。
 
「そろそろリボーンさんが来る頃か」
「あ、そうだな。来るっつってたよな」

 うんうんと、山本さんと獄寺さんが頷きかわし、ランボさんがものすごく気の毒そうな目でオレを見た。

「これから、試練が始まってしまうんですね……」
「え、何それ」
「沢田綱吉のつけを君が払うということです」

 骸まで、複雑そうな顔をしている。じわじわ嫌な予感がする。

「ちゃおっス」

 うわーー!! オレの目の前に出現したのは、あからさまに「これがマフィアです!」という感じの男の人だった。
 背は高く眼光は鋭く、黒のスーツを着ている。
 オレはオレに甘い獄寺さんの後ろに隠れてみた。
「えーとリボーンさん、お手柔らかに」とか言いかけていた獄寺さんが吹っ飛んだ。
 弱い! ええっ、おかしいよ! だって獄寺さんが強い事はオレも知ってるんだ。
 だから、次はオレは骸の後ろに回った。

「お前、変なとこだけツナに似てるな。甘い順に盾にしやがって。超直感か」
「何で僕が甘い側に入ってるんです!」
 
 骸がむっとしたように怒る。

「とにかく、お前が11代目になるために、守護者を一新しねえといけねえわけだ」

 と、その「リボーンさん」はオレが11代目になることを前提にして話す。

「ま、待ってよ! オレ11代目になるなんて一言も言ってないよ!」
「うっせえな、お前はそのために生まれそのために生きてきたんだ。恨むならツナを恨め」
「父さんなら、オレは恨んでないよ」

 だって正直言って父さんの周りの人たちって母さん達含めて、かなり濃いもん。
 ディープだもん。オレが父さんだったらある日、ふらっと逃亡してしまいそうだ。
 
「おお、その点はツナより上等だな」
「それに父さんが10代目って言ったって、実際に10代目だった期間は短くてほとんど代理のザンザスって人が統治してるんだろ?」

 雲雀さんと同じくらい、遠目にしか会ったことないけど。
 いつもなんか怖そうな人を引き連れてるイメージだ。

「ご安心を11代目。そこのところ、オレはきちんと準備をしておきました。オレの息子を、11代目の右腕にするべく、計画的に子作りをしておいたんです」
「知ってたんだぞ。お前は相変わらず安定の恐怖をオレに与えてくれるな。さすがビアンキの弟だ」
「光栄です、リボーンさん!」

 誉めてないよ!!
 っていうか、獄寺さんはどんだけ、代々右腕の座に執着しちゃってるんだよ!

「ああ、オレも従兄弟がいてさ、そいつがちょうど、同じ年だから、右腕狙わせるかって思ってんだよな」
「なんだとおお! てめえには絶対負けねえ! 今度もオレが勝つ! 安心して下さい11代目! オレの息子はオレそっくりですから!」
「オレのとこも親子みたいに似てるって言われるぜ」

 だとしたら、オレは山本さんの従兄弟が右腕に一票入れたいな。

「僕もこんな事があろうかとちゃんとクローンを作ってあるんですよ。なぜか、性格がやや中二病なのが玉に瑕ですが」

 すごいな。クローンって性格もちゃんとコピーできるんだ。

「極限、オレの息子も沢田と同じくらいかな」
「助かるぞ、そいつも徴収させてもらう」

 なんかオレが拒んでるのに、勝手に部下が次々と決まっていく……。

「あの、そんな勝手に息子の運命決めたりしていいんですか?」
「ううん、それもそうか。さすがだな沢田」
「大丈夫ですよ11代目。オレの息子はそのために生まれそのために死ぬように教育してありますから」

 怖いよ!!

「すみません11代目。オレ心当たりがありません」
「あっ、ランボさんは、無理やりオレの部下になる人を提出しなくていいんですよ!!」

 でもランボさんは気が弱いだけで、まともな人だから、同年代だったら友達になれたかもしれない。
 だからちょっと残念だ。

「それとツナだけどな、秘密任務からそろそろ戻ってくる頃じゃねえかな」
「えええっ!!」

 ざわざわっと全員がざわめいた。

「沢田が。やはり逃亡したわけじゃなかったんだな?」
「あいつの親父の跡をついだ形だな。門外顧問だ」
「何で右腕のオレに教えてくれなかったんですか!」
「もうツナがボスでない以上、お前右腕じゃねえだろ」
「っていうか、オレも知っておきたかったぜ……」
「悪かったな」

 この獄寺さんと山本さんへの態度差……。でも獄寺さんはそれどころじゃないみたいだな。

「沢田綱吉が帰ってくる、沢田綱吉が……」

 あ、骸が鳥になったり、人に戻ったりしてる。この人もそれどころじゃないみたいだな。

「……父さんが逃亡した理由はすごくよくわかる」
「だからお前の親父は逃亡してねえって」


『完』